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馬の冠関節固定術

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馬の中節骨の粉砕骨折に対する冠関節固定術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。

馬の中節骨の骨折では、粉砕骨折の病態が最も多いことが知られており、冠関節への捻転負荷、浅屈腱による過張力、冠関節の過伸展によって発症すると言われています。中節骨は上下に短く、腱や靭帯による緊張が掛かる骨であるため、骨折によって圧潰され、冠関節の脱臼を起こし易いことから、キャスト装着等の外固定術での予後はあまり芳しくなく、プレート装着による内固定を介して冠関節固定術を施す治療法が推奨されます。

中節骨の粉砕骨折に対する冠関節固定術では、関節の背側面に二枚のプレートを装着させることで、基節骨と中節骨の癒合および冠関節の外科的強直を起こさせます(下図左)。一般的に、中節骨の骨折を伴わないときに行なう冠関節固定術では(リングボーンの外科的治療など)、経関節螺子と一枚のプレート固定でも強度は十分ですが、中節骨が粉砕骨折している場合には、内外側に二枚のプレートを設置することで、内固定の強度を上げ、捻転力への抵抗を強める術式が選択されます。

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また、プレート設置に際しては、中節骨にある内外側の掌側隆起を、内固定の螺子が強固に掴んで、浅屈腱や種子骨靭帯による緊張力を活用しながら冠関節を安定化させることが重要になります(上図右)。また、冠関節の背側部は屈曲面であり、整形外科の原則と異なるプレート固定になるため(本来、プレートは骨の緊張面に設置するべき)、掌側隆起を内固定に組み込むことによって、冠関節背側面の屈曲力を軽減させて、インプラント破損を防ぐことができ、さらに、懸垂装置の作用を、関節固定の強度維持に活用することも可能となります。

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馬の冠関節固定術は、全身麻酔下での横臥位(骨折肢を上にする)にて施術されます。術野の消毒とドレーピングの後、蹄冠部から繋ぎの背側面をT字形に切開して、総指伸筋腱を逆V字に切開することで、冠関節の背側部にアプローチします(上図左)。多くの症例では、冠関節の側副靭帯を切開して、関節を脱臼させることで、骨折片同士の再構築と関節軟骨の掻把が行なわれます(上図右)。この際、基節骨遠位および中節骨近位の関節面にある軟骨を完全に掻把しておくことで、術後の骨癒合を促進できるという利点があり、また、軟骨同士の滑走を無くして、冠関節の屈伸モーションを減らすことで、インプラントに掛かる屈曲力を軽減することが出来ます。

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関節軟骨を掻把した後には、骨把持鉗子を用いて、可能な限り関節面を再構築および平坦化させた状態で、中節骨の骨折片同士を保持しますが(上図左)、この際には、繋ぎと蹄を屈曲または伸展させることで、骨片の並びを回復させます。もし、骨折発症から手術までに日数が経っていて、冠関節の脱臼および周囲組織の拘縮が起こっていた場合には、皮膚切開の前に、蹄を遠位方向へ10~20分間ほど牽引して、拘縮した組織を弛緩させる必要があります。そして、主要な軸側骨折片が再構築された後には、4.5mm径のコーティカルスクリューを用いてラグ固定を実施します(上図右)。

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中節骨の粉砕骨折では、二枚のロッキング・コンプレッション・プレート(LCP)を使った冠関節固定が施され(上図左)、一枚目は、三孔の冠関節用固定用のLCPを関節の背外側面に設置し、二枚目は、四孔のLCPを関節の背内側面に設置します(いずれも幅の狭いタイプを使用)。二枚のプレートは、正常位置に戻した冠関節の背側面に密着するように、ベンダーを使って曲げていきます。この際、一番大切なのは最も遠位の螺子孔であり、この孔に挿入したロッキングスクリューが、掌側隆起を堅固に掴む必要があります(ロッキングスクリューはLCPに直角でしか挿入できないことに注意)。このため、螺子孔にドリルガイドを取り付けた状態で骨に当ててみて、螺子が掌側隆起の方向に向くようにLCPを曲げることが重要です(上図右)。

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二枚のLCPを曲げた後は、最も遠位の螺子を最初に挿入しますが、この際、螺子を挿入する箇所は、冠関節を正常位置に戻した状態でプレートを当てて決めます。その後は、冠関節を脱臼させた状態に戻してから、最も遠位の螺子孔に、5.0mm径のロッキングスクリューを挿入して(上図左)、螺子が掌側隆起に達していること、および、関節面の連続性が維持されることを視認します。また、最初に挿入したコーティカルスクリューと接触していないことも、視認または術中X線画像で確認します。一枚目のプレート(三孔LCP)の最遠位孔にロッキングスクリューが挿入された後は、同様の手順で、二枚目のプレート(四孔LCP)の最遠位孔にもロッキングスクリューを挿入します(上図右)。

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二枚のプレートの最遠位孔にロッキングスクリューを挿入した後には、中節骨の近位関節面の平坦化が維持されていることを確認してから(上図左)、冠関節を正常位置に戻します。そして、三孔LCPの最も近位の螺子孔、および、四孔LCPの近位から二番目の螺子孔に、5.5mm径のコーティカルスクリューを、ダイナミック・コンプレッションを掛ける位置に挿入します(上図右)。この際、オフセンターのドリルガイド(通常は黄色のドリルガイド)では、矢印を冠関節面の方向にして使い、ユニバーサルドリルガイドでは、螺子孔の深部に押し込まないようにしながら、螺子孔の近位部に当てて使います。両LCPに螺子を挿入して堅固に締め付けることで、冠関節には圧迫力が加わって、骨同士が押し付けられるのを視認します。また、この時点で必ず術中X線撮影をして、中節骨近位部の関節面が圧潰していないことを確認しておきます。

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二枚のLCPによって、冠関節へのダイナミック・コンプレッションが掛けられた後は、残った三つの螺子孔にロッキングスクリューを挿入して、両プレートを基節骨に堅固に固定します(上図左)。もし、ロッキングスクリューが、他の螺子を接触する危険性がある場合には、代わりにコーティカルスクリューを挿入しますが(挿入角度を微調整することが可能)、これらの螺子孔では、ダイナミック・コンプレッションを掛けることは出来ないことに注意します。また、四孔LCPの最近位の螺子孔に挿入するロッキングスクリューは、単一皮質骨の深さ(基節骨の掌側皮質骨には到達させない)で設置することもあります(種子骨靭帯の損傷を避けるため)。その後、骨折の状態によっては、中節骨の骨幹部に、水平方向にコーティカルスクリューを入れることで、骨片間の安定性を強化することもあります(上図右)。ただし、この螺子をラグスクリュー法で挿入すると、二枚のLCPの螺子に対して歪みを生じてしまうため、ポジションスクリュー法で挿入するほうが安全です。

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全ての螺子を設置後には、術中X線撮影を行ない、骨折片の整復度合い、螺子の長さや方向、関節面の連続性などに問題が無いかを確認します。そして、総指伸筋腱の断端同士を縫い寄せてから、皮下識および皮膚を縫合閉鎖します。この際、二枚のLCPの厚みによって、皮膚組織に掛かる緊張が強いケースも多いため、必要に応じて減張縫合を実施します(マットレス縫合や近遠遠近縫合など)。骨折肢には、半肢キャストを装着させて麻酔覚醒をすることが推奨され(上図左)、中節骨の粉砕骨折における細片化が重度な場合には、ピンキャスト(外固定法)を併用することもあります(上図右)。半肢キャストは、2~3週間おきに交換しながら、8~12週間は装着されることが一般的です。ただし、手術時に巻いたキャストは緩み易いことから(手術時には罹患肢が腫脹していることが多いため)、術後の一週間目までに交換することが推奨されています。

中節骨の粉砕骨折に対する冠関節固定術では、通常、抗生物質は10日間投与して、抜糸は術後14日目頃に行ないます。運動では、術後の3ヶ月間は完休とし、その後に曳き馬運動を開始して、一ヶ月おきのX線検査で骨折治癒を評価するようにします。もし骨折部が良好に癒合すれば、手術の9~12ヶ月後から軽度の騎乗運動に復帰できることもありますが、骨折の癒合遅延や偽関節、蹄関節の変性関節疾患(ローリングボーン)を続発した場合には、慢性跛行を呈して、騎乗は困難となる症例も多いことが報告されています。

Photo courtesy of AO Surgery Reference


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