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2回目の疝痛手術のリスクは?

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馬の開腹術のあとに疝痛症状が再発した場合、もう一度、お腹を開けるか否かは、ホースマンにとっても獣医師にとっても、かなりの迷い処かもしれません。

ここでは、疝痛馬での2回目の開腹術において、生存率に関わる因子を調査した論文を紹介します。この研究では、英国のリバプール大学の獣医病院において、2002~2012年にかけて、疝痛治療のための開腹術のあとに、八週間以内に“再開腹術”(Relaparotomy)が実施された症例馬における、医療記録の回顧的解析や、短期生存率(退院した馬の割合)やハザード比(HR: Hazard ratio)の算出が行なわれました。

参考文献:
Findley JA, Salem S, Burgess R, Archer DC. Factors associated with survival of horses following relaparotomy. Equine Vet J. 2017 Jul;49(4):448-453.

結果としては、調査対象の十年間で実施された計1,531回の開腹術のうち、再開腹術が行なわれた馬は96頭であり、2回目の開腹術を要する頻度は6.3%であったことが分かりました。また、1回目と2回目の開腹術の間隔は、中央値で四日間となっていました。そして、再開腹術が選択された理由ごとに短期生存率を見てみると、疝痛症状が持続した馬では53%、創部裂開した馬では50%、術後イレウスの馬では37%、血腹の馬では17%、感染性腹膜炎の馬では0%となっていました。このため、2回目の開腹術をした理由が、疝痛症状の持続だけであった場合には、そうでない場合に比べて、死亡率が半分程度になる(HR=0.48)というデータが示されました。

この研究では、1回目の開腹術の翌日(術後24時間)におけるPCV値が高いほど、2回目の開腹術での死亡率が高くなるという傾向が認められ、PCV値のパーセントが1上がるごとに、死亡率が6%上昇する(HR=1.06)ことが分かりました。全症例のPCV値の中央値は38%であったため、これを基準にすると、オペ翌日のPCV値が50%の馬では、死亡率は約二倍になり(1.06の12乗は2.01)、同様に、PCV値が55%の馬では死亡率が2.7倍、PCV値が60%の馬では死亡率が3.6倍となることが示されています。

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以上の結果から、1回目の開腹術のあとに、難治性の胃逆流液(イレウスの徴候)や腹水の重度増量(腹膜炎の徴候)などを示さず、前掻きや膁部見返りなどの、疝痛症状の持続だけを示していたという場合や、オペ翌日の血液検査でPCV値が上がっていない場合には、2回目の開腹術を試みることで、比較的に高い生存率が期待できると言えそうです。このため、開腹術後の3~5日間は、鎮痛剤の投与は限定的にして、疝痛症状の頻度や重篤度を監視すると共に、血液検査も経時的に実施して、再開腹術の必要性や予後を判断するのが有用だと考えられました。

この研究では、2回目の開腹術で発見された所見のうち、腹膜炎が認められた場合は死亡率が四倍以上も高くなる(HR=4.41)ことが分かり(そうでない場合を比較対象としたハザード比)、また、消化管の癒着が認められた場合は死亡率が約1.8倍になる(HR=1.77)というデータも示されました。このため、1回目の開腹術のあとに、腹部エコー検査や腹水検査を実施してみて、これらの病態を疑う所見が認められた場合には、予後が芳しくない危険性を考慮して、むしろ積極的かつ早期に2回目の開腹術を実施して、腹腔病態を正確に把握すると同時に、アグレッシブな治療を試みるか、安楽殺を選択するかの判断を遅延させないことが望ましいのかもしれません。

この研究では、2回目の開腹術で発見された所見のうち、小腸の膨満が認められた場合には、死亡率が半分程度まで低い(HR=0.53)ことが示されています(そうでない場合と比較して)。この理由は明瞭には特定されていませんが、小腸の閉塞性疾患が治り易いという訳では必ずしも無く、小腸膨満を呈するような病態のうち、癒着による小腸のキンクや、吻合した箇所の通過障害があるなど、2回目の開腹術で対処可能な病変が多かったことを現わしているのかもしれません。

過去の文献(下記リンク)を見ると、1994~2001年に行なわれた300回の開腹術のうち、2回目の開腹術を要した馬は10.6%(27/254頭)であり(1回目の手術中に安楽殺となった馬は除く)、そのうち、退院できた馬の割合は48%(13/27頭)であったものの、長期生存した馬の割合は22%(6/27頭)に過ぎなかった(退院から一年間生存した場合)ことが報告されています。また、2回目の開腹術のあとに退院した馬のうち、退院後に疝痛症状が再発した馬は約七割に達しており、さらに、再入院して3回目の開腹術を要した馬も約四割に達していました。このため、再開腹術を要するような重篤な病態を呈した馬では、完全に健康な状態まで回復して長期生存する確率は低い、というデータが示されたと言えます。

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参考文献:
Mair TS, Smith LJ. Survival and complication rates in 300 horses undergoing surgical treatment of colic. Part 4: Early (acute) relaparotomy. Equine Vet J. 2005 Jul;37(4):315-8.
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