肥満の馬での術創感染のリスク
話題 - 2022年10月19日 (水)

馬の疝痛治療のための開腹術において、肥満であることの危険性が調査されています。
参考文献:Hill JA, Tyma JF, Hayes GM, Radcliffe R, Fubini SL. Higher body mass index may increase the risk for the development of incisional complications in horses following emergency ventral midline celiotomy. Equine Vet J. 2020 Nov;52(6):799-804.
ヒト医療では、肥満体型であることが手術後の死亡率や合併症の発症率の高さに関連していることが報告されており、馬の肥満においても、開腹術の術創感染との関連性が調査されました。この研究では、コーネル大学の獣医病院において、2010~2018年に疝痛治療のための正中開腹術が実施された症例馬(二歳以上で術後一ヶ月以上生存して馬)における、医療記録およびボディー・マス・インデックス(BMI)の回顧的解析が行なわれました(BMI=体重[kg]÷キ甲高[m]の二乗)。
結果としては、取り込み基準に合致した287頭の症例において、開腹術の術創感染の発症率は23.7%となっていましたが、術創感染を発症した馬のBMI(204kg/m^2)は、非発症馬のBMI(中央値:199kg/m^2)に比べて、有意に高かったことが分かりました。一方、品種とBMIのあいだには有意な相関が見られたものの、各症例の年齢、性別、品種、代謝性疾患の有無などを多因子解析に加えると、BMIと術創感染の関連性は有意では無くなっていました。

このため、肥満な馬ほど、開腹術の術創に合併症を起こし易いというデータが示され、この要因としては、肥満体型による腹圧が高くなり、術創への緊張増加が感染の発症素因になったことや、皮下脂肪や腹腔脂肪の厚さが、術創汚染菌の残存や不十分な抗生物質の浸潤を誘発した可能性もあると考えられました。このため、開腹術の際に、厳重な腹腔洗浄を実施したり、術後抗生物質の投与期間の延長など、術創感染への予防を講じることが推奨されるケースもあると考えられました。
しかし、このような肥満のリスクは、他の個体要素(高年齢やメタボリック症候群の併発など)との相互作用があるため、此処の症例の病態を精査して、開腹術の合併症予防の対策を講じる必要があると言えます。また、馬の品種によっては、肥満のなり易さは差異があるものの、特定の品種での術創感染が有意に多いというデータは示されませんでした。今後は、さらに症例数を増やした検討を重ねて、肥満以外の要素のうち、術創感染のリスクを有意に高めるものを精査する必要があると考察されています。

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