馬の心調律障害とプアパフォーマンスの関連性
話題 - 2022年10月21日 (金)

レース中の競走馬がプアパフォーマンスを示したときに、その原因として、心臓の調律障害があるのかもしれない、という研究が行なわれています。
参考文献:Marr CM, Franklin S, Garrod G, Wylie C, Smith L, Dukes-McEwan J, Bright J, Allen K. Exercise-associated rhythm disturbances in poorly performing Thoroughbreds: risk factors and association with racing performance. J Vet Cardiol. 2021 Jun;35:14-24.
この研究では、英国や米国の複数の馬病院において、プアパフォーマンスの精密検査を受けた245頭の競走馬における医療記録の回顧的調査が行なわれました。その結果、心電図検査で間欠的な早期脱分極を示した馬が45%に及び、また、複雑性の頻脈性不整脈を示した馬も20%に上っていました。これらの心調律障害が発生したタイミングを見ると、準備運動中(8%)や襲歩の最中(25%)は少なく、大多数は整理運動中(51%)に確認されたものの、これらの心調律障害が、競走馬としてのプアパフォーマンスに影響したと判断された馬は15頭も見られました。
これらの結果から、プアパフォーマンスを示した競走馬の中には、心調律障害を起こした馬も多く、因果関係が存在する可能性もあると推測されています。一方で、心調律障害の発生の有無は、その後のレースへの出走には有意には影響しておらず、心調律障害が発生したタイミングについても、事後の出走率とは有意には相関していなかった事から、心調律の障害は一過性のもので、持続的又は回帰的に競走能力の低下を引き起こすというデータは示されませんでした。

この研究では、トレッドミル上での運動負荷時での内視鏡検査において、運動誘発性の上部気道閉塞性の病態が、心調律障害の発生と関連していることが示されており、気道閉塞を伴う呼吸器疾患の有無によって、心調律の異常の検知には多様性が生じると考察されています。このため、今後の研究では、プアパフォーマンスの素因となるような心調律障害の発生が、上部気道疾患の有無または重篤度と相関するか否かを、より多症例を対象とした調査によって精査する必要があると提唱されています。
過去の文献を見ると、英国の競走馬を対象とした研究(下記リンク)において、プアパフォーマンスを呈してトレッドミル運動負荷試験が実施されたサラブレッド競走馬のうち、心室脱分極や上室性脱分極の発生が確認された馬が63%に上っており、競走馬のプアパフォーマンスと不整脈との関連性が示唆されました。一方、これらの競走馬のうち69%において、上部気道疾患(DDSP、軟口蓋不安定症、ADAF等)の併発が確認されており、不整脈が偶発的なものなのか、呼吸器疾患が発症素因となったかについては、今後の追加研究を要すると考察されています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
参考文献:
Jose-Cunilleras E, Young LE, Newton JR, Marlin DJ. Cardiac arrhythmias during and after treadmill exercise in poorly performing thoroughbred racehorses. Equine Vet J Suppl. 2006 Aug;(36):163-70.