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競走馬の不整脈とプアパフォーマンスの関連性

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一般的に、馬のプアパフォーマンスでは、運動器系および呼吸器系に次いで、心脈管系の疾患が、三番目に多い原因であることが知られていますが、その発生率や、他病態との相互作用については不明な点が多いと言えます。

ここでは、競走馬のプアパフォーマンスと不整脈の関連性を調査した知見を紹介します。この研究では、イタリアのミラノ大学の獣医大学病院において、2005~2015年にかけて、プアパフォーマンスの症状を呈した158頭のスタンダードブレッド競走馬に対して、トレッドミルを用いた運動負荷を課して、運動前、運動中、運動後での心電図検査の所見が評価されました。

参考文献:
Alberti E, Stucchi L, Lo Feudo CM, Stancari G, Conturba B, Ferrucci F, Zucca E. Evaluation of Cardiac Arrhythmias before, during, and after Treadmill Exercise Testing in Poorly Performing Standardbred Racehorses. Animals (Basel). 2021 Aug 16;11(8):2413.

結果としては、プアパフォーマンスを呈した競走馬の68%(108/158頭)において、少なくとも一つの不整脈の発生が確認され、その内訳としては、心室期外収縮が最も多く(48%)、次いで、房室ブロック(34%)、洞性不整脈(8%)、上室期外収縮(7%)、洞房ブロック(3%)となっていました。また、心室期外収縮が発生する確率は、最小心拍数の増加に伴って下げる傾向が認められ、さらに、これらの不整脈の発生は、加齢および血中乳酸値増加に伴って上がる傾向が示されました。このため、競走馬のプアパフォーマンスでは、不整脈の発現が一因または発生素因となる可能性があると考察されていますが、因果関係を証明するためには、実際のレース時での心脈管系の評価を要すると考えられました。

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過去の文献[1]では、サラブレッド競走馬における不整脈の発現率は65%で、その内訳では、房室ブロックが16%しか無いという特徴があります。このような相反するデータの要因としては、騒音の少ないトレッドミル運動中なのか、走路での調教時の所見なのかの違いによると推測されており、実際に、走路環境においては、より広い自律神経緊張変動が生じて、心拍数増加を招くことから、洞性不整脈が増えて、房室ブロックが減るという現象が知られています。一方、プアパフォーマンスを呈したサラブレッド競走馬における心電図検査では、期外収縮の発現率は63%で、そのうち、心室期外収縮は26%を占めることが報告されています[2]。

競走馬における不整脈では、プアパフォーマンスとの因果関係を推測するのは、多様な他因子との関連性を除外する意味でも、必ずしも容易ではありません。過去の知見[3,4]では、スタンダードブレッド競走馬における期外収縮の発生率は、強運動中では43%で、運動後では28%であったと報告されています。同様に、スタンダードブレッド競走馬での洞室性期外収縮は、運動中では50%、運動後では46%の馬に認められたという報告もあります[5]。本研究における、不整脈の発生率(68%)および心室期外収縮の発生率(48%)は、比較的に高い値であったものの、今後の研究にて、プアパフォーマンスとの関連性を実証する必要があると考察されています。

この研究では、不整脈の発生率と年齢のあいだに正の相関が認められ、同様の知見は、過去にも報告されています[5]。この要因としては、長期間にわたる調教によって、心血管系の重度リモデリングが起こり、心臓の偏心性肥大を生じることが挙げられています。そして、このような心臓サイズの変化が、房室弁の機能不全を続発させるという病因論が提唱されており、つまり、加齢に伴う期外収縮の増加は、調教負荷による蓄積性作用によるものと推察されています。

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この研究で認められた、期外収縮と血中乳酸値の相関については、不整脈の発現が、運動機能に影響しうるほどの重篤度に達していたためと考察されています。過去の文献[2]においても、プアパフォーマンスを呈したサラブレッド競走馬において、期外収縮を発現した馬では、運動開始の2分後までに、血中乳酸値が増加したという知見が示されています。また、強運動によって電解質不均衡や低酸素症(=乳酸値上昇に繋がる)が発生した馬においては、運動中および運動後において、心室性不整脈を続発する一因になるという報告もあります[1]。

この研究では、プアパフォーマンスを呈した競走馬における心電図検査に主眼が置かれ、呼吸系の病態は精査されていない、という限界点が指摘されています。過去の文献[2,6]では、期外収縮と上部/下部気道疾患のあいだには、有意な相関は無かったという知見がある一方で、他の報告[7]では、プアパフォーマンスを呈したサラブレッド競走馬において、異所性/興奮回帰性リズムと下部気道疾患とのあいだに関連性があったという報告もなされています。このため、今後の研究では、プアパフォーマンスと不整脈とのあいだに因果関係があるのか、それとも、この二つが、呼吸器疾患が原因で起こる続発性の徴候なのかについて、内視鏡検査等を併用して調査する必要があると考察されています。

ヒト医療の領域では、プロスポーツ選手における心血管系の異常を早期診断して、競技参加の安全性を評価すべきと提唱されており、特に、不整脈などの心血管系病態の存在が、強運動中の突然死に繋がるリスクが指摘されています[8]。一方、米国獣医内科学会(ACVIM)および欧州馬内科学会(ECEIM)の提言によれば、馬の洞室性期外収縮は、たとえ運動中に発生した場合であっても、その馬を騎乗する上での安全性は問題無いとされています。しかし、それがプアパフォーマンスの原因となったり、心房細動を誘発するリスクがあることは知られており[9]、さらに、ヒト医療と同様に、突然死の潜在的な発症素因として調査すべきである、という警鐘も鳴らされています[4,10]。

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参考文献:
[1] Ryan, N.; Marr, C.M.; McGladdery, A.J. Survey of cardiac arrhythmias during submaximal and maximal exercise in Thoroughbred racehorses. Equine Vet. J. 2005, 37, 265–268.
[2] Jose-Cunilleras, E.; Young, L.E.; Newton, J.R.; Marlin, D.J. Cardiac arrhythmias during and after treadmill exercise in poorly performing Thoroughbred racehorses. Equine Vet. J. 2006, 38, 163–170.
[3] Slack, J.; Stefanovski, D.; Madsen, T.F.; Fjordbakk, C.T.; Strand, E.; Fintl, C. Cardiac arrhythmias in poorly performing Standardbred and Norwegian–Swedish Coldblooded trotters undergoing high-speed treadmill testing. Vet. J. 2021, 267, 105574.
[4] Physick-Sheard, P.W.; McGurrin, M.K.J. Ventricular Arrhythmias during Race Recovery in Standardbred Racehorses and Associations with Autonomic Activity. J. Vet. Intern. Med. 2010, 24, 1158–1166.
[5] Slack, J.; Boston, R.C.; Soma, L.R.; Reef, V.B. Occurrence of cardiac arrhythmias in Standardbred racehorses. Equine Vet. J. 2015, 47, 398–404.
[6] Reef, V.B.; Davidson, E.J.; Slack, J.; Stefanovski, D. Hypercapnia and hyperlactatemia were positively associated with higher-grade arrhythmias during peak exercise in horses during poor performance evaluation on a high-speed treadmill. Vet. J. 2020, 266, 105572.
[7] Marr, C.M.; Franklin, S.; Garrod, G.; Wylie, C.; Smith, L.; Dukes-McEwan, J.; Bright, J.; Allen, K. Exercise-associated rhythm disturbances in poorly performing Thoroughbreds: Risk factors and association with racing performance. Equine Vet. J. 2021, 53, 656–669.
[8] Zipes, D.P.; Ackerman, M.J.; Estes, N.A.M.; Grant, A.O.; Myerburg, R.J.; Van Hare, G. Task Force 7: Arrhythmias. 36th Bethesda Conf. Eligibility Recomm. Compet. Athletes with Cardiovasc. Abnorm. J. Am. Coll. Cardiol. 2005, 45, 1354–1363.
[9] Reef, V.B.; Bonagura, J.; Buhl, R.; McGurrin, M.K.J.; Schwarzwald, C.C.; van Loon, G.; Young, L. Recommendations for Management of Equine Athletes with Cardiovascular Abnormalities. J. Vet. Intern. Med. 2014, 28, 749–761.
[10] Buhl, R.; Petersen, E.E.; Lindholm, M.; Bak, L.; Nostell, K. Cardiac Arrhythmias in Standardbreds during and after Racing - Possible Association Between Heart Size, Valvular Regurgitations, and Arrhythmias. J. Equine Vet. Sci. 2013, 33, 590–596.

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