馬の文献:ロドコッカスエクイ肺炎(Chaffin et al. 2003b)
文献 - 2022年10月22日 (土)
「子馬のロドコッカスエクイ肺炎の発症に関わる危険因子としての馬繁殖牧場の管理法と予防的治療法の評価」
Chaffin MK, Cohen ND, Martens RJ. Evaluation of equine breeding farm management and preventative health practices as risk factors for development of Rhodococcus equi pneumonia in foals. J Am Vet Med Assoc. 2003; 222(4): 476-485.
この研究では、子馬のロドコッカスエクイ肺炎(Rhodococcus equi pneumonia)の発症に関わる危険因子(Risk factors)を解析するため、2764頭の子馬が飼養されていた64箇所の馬繁殖牧場の管理法と予防的治療法(Equine breeding farm management and preventative health practices)が評価されました。
結果としては、ロジスティック回帰解析(Logistic regression)の結果から、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場では、清浄な牧場に比べて、子馬の出産に立ち会った割合、移行免疫(Passive immunity)の検査をした割合、免疫グロブリン補給(Supplement immunoglobulin)のための血漿投与(Plasma administration)をした割合、予防的な高免疫血漿(Prophylactic administration of hyperimmune plasma)が投与されていた割合、ストレプトコッカス・エクイへのワクチン接種をした割合、複数回の駆虫剤投与による寄生虫予防(Multiple anthelmintics in deworming program)をした割合などが、有意に高かった事が報告されています。このため、子馬のロドコッカスエクイ肺炎が発症している汚染牧場では、現時点での管理法および予防的治療法には問題は認められず、これらの取り組みにも関わらず、風土病(Endemic disease)および散発病(Sporadic disease)としてのロドコッカスエクイ肺炎が、完全には抑え切れていないという実状が示されました。
この研究では、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場では、清浄な牧場に比べて、他の呼吸器疾患(Other respiratory disorders)を発症している割合が高く、また、馬房の床が土である場合(Dirt floors in stalls)が四倍近くも多いことが示されました。このため、子馬のロドコッカスエクイ肺炎が発症している汚染牧場では、完全に洗浄および消毒することが難しい土の床面が、病原菌の温床になっている可能性が示唆されましたが、今回の研究では、これらの土壌からの細菌培養(Bacterial culture)は行われておらず、馬房の床素材を変えるだけで、ロドコッカスエクイ肺炎の予防につながると結論付けるのは難しい、という考察がなされています。また、他の呼吸器疾患の発症に関しては、ロドコッカスエクイ感染が他の菌による疾患を助長したというよりも、ロドコッカスエクイ肺炎を起こし易い飼養環境因子の中では、一往にして、他の細菌による病気も引き起こし易かった、という解釈(Interpretation)がなされています。
一般的に、子馬の出産後に、初乳(Colostrum)の質や量が適切ではなく、免疫移行抗体の不全(Failure of passive transfer)を生じた場合には、敗血症(Septicemia)や肺炎(Pneumonia)などを発症しやすいという知見がある反面(Koterba et al. EVJ. 1984;16:376, McGuire et al. JAVMA. 1977;170:1302, Robinson et al. EVJ. 1993;25:214, McGuire et al. JAVMA. 1975;166:71)、移行免疫の度合いとロドコッカスエクイ肺炎の発症には、有意な相関は無かったという報告もあり(Raidal. Aust Vet J. 1996;73:201)、子馬における免疫移行抗体の不全と肺炎発症の因果関係(Causality)について、疑問を呈している文献もあります(Baldwin et al. JAVMA. 1991;198:423)。今回の研究では、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場のほうが、移行免疫の検査および免疫付与のための血漿投与などが、より頻繁に行われていた傾向が認められていますが、このデータの解釈としては、そのような予防的療法が奏功していなかったのか、それとも、そのような取り組みがあったからこそ、ロドコッカスエクイ肺炎がある程度まで押さえ込めていたのかは、一概に結論付けるのは難しいと考えられました。
この研究では、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場のほうが、ロドコッカスエクイ菌に対する抗血漿を投与されている割合が高かった事が示されており、当然ながらこれは、抗血漿投与によって肺炎が誘発された訳ではなく、汚染牧場における感染予防のための積極的な対抗処置を現したものであると考察されています。他の文献では、高免疫血漿の投与によるロドコッカスエクイ肺炎の予防効果(Preventive effect)が証明されている反面(Madigan et al. J Reprod Fertil Suppl. 1991;44:571, Becu et al. Vet Microbiol. 1997;56:193)、高免疫血漿の投与が常に肺炎発症率の低下につながる訳ではない、という報告もなされています(Hurley and Begg. Aust Vet J. 1995;72:418)。また、高免疫血漿による肺炎予防の機序、および適切な投与量については、不明な点も多いという知見も示されています(Giguere and Prescott. Vet Microbol. 1997;56:313, Martens et al. EVJ. 1989;21:249)。
この研究では、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場と清浄牧場のあいだで、牧草地への肥料として馬糞が使われている割合(Whether horse manure was spread on the pastures as fertilizer)、もしくは、その際に馬糞を発酵してから使用している割合などは(Whether horse manure was composted prior to its use on pastures)、有意差を示していませんでした。しかし、一般的には、保菌馬(Carrier horses)の馬糞を飼養環境内にばら撒く事は、ロドコッカスエクイ菌の汚染範囲を拡大させる重要な要因であると考えられており(Takai et al. Vet Microbiol. 1987;14:233, Takai et al. J Clin Microbiol. 1991;29:2887)、馬糞を牧草地の肥料として使うのを避けたり、放牧場や馬場内の馬糞を速やかに除去する方針を徹底することで、子馬がロドコッカスエクイ菌に曝露する度合いを減少できる、という提唱がなされています(Giguere and Prescott. Vet Microbol. 1997;56:313, Cohen et al. Compend Contin Educ Pract Vet. 2000;22:1062)。
この研究では、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場と清浄牧場のあいだで、飼養環境における粉塵(Dust)や換気(Ventilation)に関する主観的な評価(Subjective assessment)には、有意差は認められませんでした(しかし、客観的な粉塵&換気の測定は行われていない)。しかし、他の文献では、飼養環境における粉塵量の多さが、ロドコッカスエクイ感染に関与するという知見や(Clarke. EVE. 1989;1:30)、埃っぽい環境を生み出しやすい乾燥した気候下では、子馬のロドコッカスエクイ肺炎の発症率が上がるという報告もあります(Robinson. J Reprod Fertil Suppl. 1982;32:477, Debey and Bailie. Vet Microbiol. 1987;14:251)。
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この研究では、子馬のロドコッカスエクイ肺炎(Rhodococcus equi pneumonia)の発症に関わる危険因子(Risk factors)を解析するため、2764頭の子馬が飼養されていた64箇所の馬繁殖牧場の管理法と予防的治療法(Equine breeding farm management and preventative health practices)が評価されました。
結果としては、ロジスティック回帰解析(Logistic regression)の結果から、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場では、清浄な牧場に比べて、子馬の出産に立ち会った割合、移行免疫(Passive immunity)の検査をした割合、免疫グロブリン補給(Supplement immunoglobulin)のための血漿投与(Plasma administration)をした割合、予防的な高免疫血漿(Prophylactic administration of hyperimmune plasma)が投与されていた割合、ストレプトコッカス・エクイへのワクチン接種をした割合、複数回の駆虫剤投与による寄生虫予防(Multiple anthelmintics in deworming program)をした割合などが、有意に高かった事が報告されています。このため、子馬のロドコッカスエクイ肺炎が発症している汚染牧場では、現時点での管理法および予防的治療法には問題は認められず、これらの取り組みにも関わらず、風土病(Endemic disease)および散発病(Sporadic disease)としてのロドコッカスエクイ肺炎が、完全には抑え切れていないという実状が示されました。
この研究では、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場では、清浄な牧場に比べて、他の呼吸器疾患(Other respiratory disorders)を発症している割合が高く、また、馬房の床が土である場合(Dirt floors in stalls)が四倍近くも多いことが示されました。このため、子馬のロドコッカスエクイ肺炎が発症している汚染牧場では、完全に洗浄および消毒することが難しい土の床面が、病原菌の温床になっている可能性が示唆されましたが、今回の研究では、これらの土壌からの細菌培養(Bacterial culture)は行われておらず、馬房の床素材を変えるだけで、ロドコッカスエクイ肺炎の予防につながると結論付けるのは難しい、という考察がなされています。また、他の呼吸器疾患の発症に関しては、ロドコッカスエクイ感染が他の菌による疾患を助長したというよりも、ロドコッカスエクイ肺炎を起こし易い飼養環境因子の中では、一往にして、他の細菌による病気も引き起こし易かった、という解釈(Interpretation)がなされています。
一般的に、子馬の出産後に、初乳(Colostrum)の質や量が適切ではなく、免疫移行抗体の不全(Failure of passive transfer)を生じた場合には、敗血症(Septicemia)や肺炎(Pneumonia)などを発症しやすいという知見がある反面(Koterba et al. EVJ. 1984;16:376, McGuire et al. JAVMA. 1977;170:1302, Robinson et al. EVJ. 1993;25:214, McGuire et al. JAVMA. 1975;166:71)、移行免疫の度合いとロドコッカスエクイ肺炎の発症には、有意な相関は無かったという報告もあり(Raidal. Aust Vet J. 1996;73:201)、子馬における免疫移行抗体の不全と肺炎発症の因果関係(Causality)について、疑問を呈している文献もあります(Baldwin et al. JAVMA. 1991;198:423)。今回の研究では、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場のほうが、移行免疫の検査および免疫付与のための血漿投与などが、より頻繁に行われていた傾向が認められていますが、このデータの解釈としては、そのような予防的療法が奏功していなかったのか、それとも、そのような取り組みがあったからこそ、ロドコッカスエクイ肺炎がある程度まで押さえ込めていたのかは、一概に結論付けるのは難しいと考えられました。
この研究では、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場のほうが、ロドコッカスエクイ菌に対する抗血漿を投与されている割合が高かった事が示されており、当然ながらこれは、抗血漿投与によって肺炎が誘発された訳ではなく、汚染牧場における感染予防のための積極的な対抗処置を現したものであると考察されています。他の文献では、高免疫血漿の投与によるロドコッカスエクイ肺炎の予防効果(Preventive effect)が証明されている反面(Madigan et al. J Reprod Fertil Suppl. 1991;44:571, Becu et al. Vet Microbiol. 1997;56:193)、高免疫血漿の投与が常に肺炎発症率の低下につながる訳ではない、という報告もなされています(Hurley and Begg. Aust Vet J. 1995;72:418)。また、高免疫血漿による肺炎予防の機序、および適切な投与量については、不明な点も多いという知見も示されています(Giguere and Prescott. Vet Microbol. 1997;56:313, Martens et al. EVJ. 1989;21:249)。
この研究では、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場と清浄牧場のあいだで、牧草地への肥料として馬糞が使われている割合(Whether horse manure was spread on the pastures as fertilizer)、もしくは、その際に馬糞を発酵してから使用している割合などは(Whether horse manure was composted prior to its use on pastures)、有意差を示していませんでした。しかし、一般的には、保菌馬(Carrier horses)の馬糞を飼養環境内にばら撒く事は、ロドコッカスエクイ菌の汚染範囲を拡大させる重要な要因であると考えられており(Takai et al. Vet Microbiol. 1987;14:233, Takai et al. J Clin Microbiol. 1991;29:2887)、馬糞を牧草地の肥料として使うのを避けたり、放牧場や馬場内の馬糞を速やかに除去する方針を徹底することで、子馬がロドコッカスエクイ菌に曝露する度合いを減少できる、という提唱がなされています(Giguere and Prescott. Vet Microbol. 1997;56:313, Cohen et al. Compend Contin Educ Pract Vet. 2000;22:1062)。
この研究では、ロドコッカスエクイ菌の汚染牧場と清浄牧場のあいだで、飼養環境における粉塵(Dust)や換気(Ventilation)に関する主観的な評価(Subjective assessment)には、有意差は認められませんでした(しかし、客観的な粉塵&換気の測定は行われていない)。しかし、他の文献では、飼養環境における粉塵量の多さが、ロドコッカスエクイ感染に関与するという知見や(Clarke. EVE. 1989;1:30)、埃っぽい環境を生み出しやすい乾燥した気候下では、子馬のロドコッカスエクイ肺炎の発症率が上がるという報告もあります(Robinson. J Reprod Fertil Suppl. 1982;32:477, Debey and Bailie. Vet Microbiol. 1987;14:251)。
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