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馬の去勢での合併症を防ぐには

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馬の去勢手術は、最も頻繁に実施されるフィールド手術の一つであり、比較的に簡易な診療行為であると認識されがちですが、去勢後の合併症は一定の確率で起こることから、海外では、獣医療訴訟となる案件も多いことが知られています。

ここでは、馬の去勢における術後合併症の発生状況、および、発症に関わる危険因子を調査した知見を紹介します。この研究では、2015~2017年において、英国の馬獣医師53人が施術した495頭の去勢における、医療記録の回顧的解析、および、合併症の発生に関わるオッズ比(OR)が算出されました。

参考文献:
Hodgson C, Pinchbeck G. A prospective multicentre survey of complications associated with equine castration to facilitate clinical audit. Equine Vet J. 2019 Jul;51(4):435-439.

結果としては、馬の去勢における術後合併症の発生率は11%(44/392頭)に及んでおり、最も多いのが創部腫脹で(9%)、次いで、創部感染(4%)、強直歩様(3%)、滲出液(2%)となっていました。一方、去勢の術中合併症の発生率も15%(69/475頭)に達し、最も多いのが24時間以上の出血で(15%)、次いで、過剰な体動(11%)、滅菌性損失(5%)、外科的アプローチ困難(3%)、精索出血(2%)などでした。このため、去勢する馬の7~9頭に一頭は、術後または術中合併症を発生することが分かり、合併症の予防に努めることの重要性を再認識させるデータが示されたと言えます。

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この研究では、去勢の手術後に、24時間以上の出血を起こす確率は、精索出血が見られた場合には六十倍近くも高くなり(OR=58.1)、また、外科的アプローチが困難であった場合には九倍以上も高くなる(OR=9.2)ことが示されました。このため、去勢の施術に際しては、正確な手技でアプローチして、精索組織を確実に挫滅/結紮して止血を施すことが重要であることが再確認されました。また、滅菌性損失した場合にも、出血リスクが十倍近くも高くなるため(OR=9.9)、滅菌手技を徹底することも大切であると言えます。

この研究では、去勢の手術後に、創部腫脹による強直歩様を起こす確率は、過剰な体動があった場合には五倍近くも高くなり(OR=4.9)、また、24時間以上の出血を起こした場合にも三倍近く高くなる(OR=2.8)というデータが示され、また、腫脹や強直歩様のリスクは、術前の抗生物質投与によって1/7以下まで低くなる(OR=0.14)ことも分かりました。このため、去勢の施術に際しては、特に、体動や出血があった場合においては、確実な止血処置で血腫を予防したり、十分な排液路形成(総鞘膜切開創の拡大措置など)による浮腫予防を図ると共に、感染予防のための抗生物質投与を行なうことで、術後の重度腫脹や、後肢の強直歩様のリスクを軽減できることが示唆されました。

この研究では、去勢馬の年齢が一歳増すごとに、創部腫脹による強直歩様を起こす確率が二割増しになる(一歳ごとのOR=1.2)ことが分かりました。たとえば、当歳馬の去勢に比較して、七歳馬の去勢では、創部腫脹による強直歩様を起こすリスクが三倍近くも高い(1.2の六乗は2.98)という結果となりました。これは、若い馬ほど精巣が小さく、精索も細いケースが多いことから、組織侵襲性や血腫のリスクも低くなったためと考察されています。なお、この研究の去勢馬は、二ヶ月齢から25歳齢まで含まれ、中央値は当歳となっていました。

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この研究では、去勢の手術後に、創部感染による滲出液を生じる確率は、起立位で施術した場合には四倍以上も高くなり(OR=4.1)、また、過剰体動を起こした場合にも四倍近く高くなる(OR=3.9)というデータが示されました。この要因としては、立位にて、両後肢を開脚していない姿勢で去勢したり、倒馬時でも、過剰に体動してしまった場合には、止血や排液路形成の処置が不十分となり、感染リスク上昇や滲出液増加に繋がったためと推測されています。なお、この研究では、立位での去勢が21%で、倒馬させての去勢が79%となっていました。

過去の文献では、馬の去勢における合併症の発生率は、10%から38%まで様々であり、調査対象となる馬の年齢や品種によって多様であると言われています[1-4]。幸いにも、殆どの去勢の合併症は、軽い病態で、良好に治癒することが知られていますが、深刻な合併症としては、重度出血、腸管吐出、腹膜炎などが起こり得ることが報告されています[5]。また、去勢された馬の死亡率は0.3%であったという報告もあります[1]。この研究における深刻な合併症としては、腸管吐出(0.8%)や鼠経ヘルニア(0.5%)が見られました。一方、去勢の30日後までに死亡した馬は1%(4/392頭)でしたが、この四頭のうち、去勢の合併症が死因となったと確定された馬はいませんでした。

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参考文献:
[1] Kilcoyne I, Watson JL, Kass PH, Spier SJ. Incidence, management, and outcome of complications of castration in equids: 324 cases (1998-2008). J Am Vet Med Assoc. 2013 Mar 15;242(6):820-5.
[2] Schumacher, J., Scrutchfield, W.L. and Martin, M.T. (1987) Peritonitis following castration in 3 horses (Review Article). J. Eq. Vet. Sci. 7, pp. 220-221.
[3] Embertson, R.M. (2009) Selected urogenital surgery concerns and complications. Vet. Clin. N. AM.: Equine Pract. 26, pp 643-661.
[4] Mason BJ, Newton JR, Payne RJ, Pilsworth RC. Costs and complications of equine castration: a UK practice-based study comparing 'standing nonsutured' and 'recumbent sutured' techniques. Equine Vet J. 2005 Sep;37(5):468-72.
[5] Kilcoyne, I. (2013) Equine castration: A review of techniques, complications and their management. Equine vet. Educ. 25, pp. 476–482.
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