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馬の鼠径停留精巣の切除術

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馬の鼠径停留精巣の切除術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。

停留精巣(いわゆる陰睾)は、生後一ヶ月を過ぎても、精巣が陰嚢内まで下降していない発生学的な病態を指し(上図のCryptorchid testicle)、発生率は左側精巣のほうが高いことが知られています。停留した精巣には、精子の生成能は無いものの、テストステロン分泌は見られるため、発情行動や気性の荒々しさも示すことから、牡馬を去勢するときには、停留している精巣も切除する必要があります。停留した精巣が鼠経管の内部にある場合には、鼠径部切開による低侵襲的な切除が可能となります。

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鼠径部切開による停留精巣の切除術では、全身麻酔下での背臥位にて、外鼠経輪の箇所に8~15cmの皮膚切開創を設けます。もし、対側の健常な精巣も一緒に切除する場合には、陰嚢部を皮膚切開することで、一つの切開創から両方の精巣を切除することも可能です。そして、皮下識を用手で剥離することで外鼠経輪を露出させた後(上図)、停留していた精巣を触知できる場合には(麻酔薬の筋弛緩作用により鼠経管内の停留精巣が滑り出てくることもあるため)、鞘膜を切開して、精巣と精巣上体の両方を引き出せるかを確認します。万が一、停留精巣だと思っていた馬が、片側性去勢が行なわれていただけ(去勢処置の記録漏れ等)の場合には、鼠経管のなかに精索の断端が触知され、正常に発達した精巣挙筋が見られます。

外鼠経輪を露出させた後は、鼠経管の内部に埋没している停留精巣、または、内鼠経輪のすぐ内側にある腹腔内精巣(いわゆるハイフランカー)を引っ張り出す必要があります。そのためには、総鞘膜の痕跡である鞘状突起を見つけ、それを切開して精巣上体を引き出し、その連続である精巣固有靭帯を牽引することで、精巣を鼠経管の外へと引き出すことが出来ます。

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ただ、停留精巣の馬では、鞘状突起が鼠経管内に内転しているケースも多いため、まず外鼠経輪の辺縁(鼠経輪の中央から頭部1/3の箇所)を触診して、包膜を手指で牽引し、鼠経管内へと線維束のように走行している陰嚢靭帯(精巣導帯の鼠経伸展部)を触知して、それを引き出すことで、鞘状突起(白く光沢のある構造物)を視認するようにします。外鼠経輪の尾側には、陰部大腿神経も走行しているため、これを陰嚢靭帯と間違えないようにします。また、陰嚢靭帯を引くことで、鞘状突起内の精巣上体を触知できたり、鞘状突起の外側部にある萎縮した精巣挙筋を視認できることもあります。さらに、鞘状突起を外転させるためには、鼠経管内にある腟輪の中にスポンジ鉗子を挿入して、鞘状突起の尖端部を掴んで外転させるという方法もあります(上図)。腟輪の位置が分かりにくい事もありますが、鼠経輪に四指を挿入した場合には(小指が頭側)、中指の真下に腟輪が位置すると言われています。

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鞘状突起を外鼠経輪の外まで外転させた後は、鼠経包膜を剥離してから、鞘状突起を長軸切開して、内部にある精巣上体を露出させます(上図)。そして、精巣上体を鉗子で掴んで引き出し、その尾部を確認したら、精巣上体尾部に付着している精巣固有靭帯を牽引することで、停留精巣を鼠経管から引っ張り出すことが出来ます(下図)。この際、若齢馬では、腟輪を用手で拡張させることで、停留精巣の外転が容易になる事もあります。なお、精巣上体そのものは、それほど堅固な組織ではなく、強い牽引によって裂けることもあるため、精巣固有靭帯を掴むまでは、慎重に用手操作することが大切です。

鼠経輪の外まで停留精巣を引き出した後は、通常の去勢と同様に、精巣の近位側に挫滅鋏を掛けてから切除します。もし、精巣脈管根が短く、挫滅鋏を掛けられない時には、精巣近位側で結紮したあとに切断します。そして、遠位側の陰嚢靭帯も結紮・切断して、断端からの出血が無いのを確認します。その後は、必要であれば、対側の健常な精巣を、通常の方法で去勢します。一般的な去勢と同様に、皮膚は縫合せず、開放創として二次癒合を促すことが一般的です。

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なお、停留精巣の切除後には、必ず陰部の触診を行ない、腟輪の幅が二指幅(人差し指と中指を挿入できる程度の幅)よりも広いときには、内臓吐出を予防する処置が必要となります。腟輪が、二指幅かそれ以下であれば、内臓の吐出が無いかを監視しながら、そのまま自然治癒で拘縮するのを待つことで問題ありません。一つの予防処置としては、術後の24~36時間にかけて、鼠経管内にガーゼを詰め込んでおくことで(ガーゼの下端は皮膚に縫い付けておく)、腟輪がある程度拘縮するまでに内臓が吐出するのを防ぎます。この際、ガーゼが腹腔内まで達してしまうと、腟輪の拘縮を妨げ、大網と癒着してしまうため、直腸検査で内鼠経輪を触診して、ガーゼが腹腔内に達していないことを確認します。ガーゼの除去後は、一週間は曳き馬のみで、術後の三週間は激しい運動(駈歩、襲歩、障害飛越など)を制限するようにします。

一方、より確実に内臓吐出を予防するためには、外鼠経輪を縫合閉鎖する手法もあります。この場合には、太めの吸収糸を用いて、単純結紮または連続縫合を施しますが、ヘルニア縫合針(先が鈍端になっている半円の針)やループ縫合糸が用いられることもあります。外鼠経輪を縫合閉鎖させる際には、辺縁に強い緊張力が掛かることがあるため、必要に応じて減張縫合(マットレス縫合、近遠遠近縫合)を施し、また、馬を背臥位から横臥位にして、少し後肢を閉じながら縫合することが有用です。やはりこの場合も、術後の三週間は、激しい運動を制限することが大切です。

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