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馬の陰睾と単精巣症の見分け方

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牡馬における停留精巣の治療を行なうときには、単精巣症との鑑別を要する症例もあります。

一般的に、停留精巣(いわゆる陰睾)とは、一ヶ月齢以降になっても、精巣が陰嚢内まで下降していない病態を指しています。この場合、精巣が鼠経管の内部や内鼠経輪の内側、もしくは、腹腔の深部に位置している事から、これを摘出するために、通常の去勢とは異なる処置が必要になります。一方で、もともと精巣が一個しか無いという牡馬もおり、これを、先天性の単精巣症(Congenital monorchidism)と呼んでいます。そして、停留精巣の治療を行なうときには、この単精巣症との鑑別を要するケースも出てきます。

単精巣症が起こる要因は、胎児の時期に精索捻転などの精巣の血流障害を生じて、片側性の精巣無形成が起こることが挙げられますが、停留精巣が生後に精索捻転を生じて、精巣変性症を起こす場合もあります(重度の疝痛症状を示すこともある)。一方、腹腔内の停留精巣において、精巣が重度に萎縮して脂肪組織内などに埋没してしまい、肉眼的に探知できない症例もあります。本来、前者のような単精巣症では、精巣の機能は損失していますが、後者のように、埋没した停留精巣の場合には、精子の生成能は無いものの、ホルモン分泌能が遺残しているという問題があります。

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いずれの病態においても、停留精巣の治療のために鼠経部切開や腹腔探索を実施した際に、片側の精巣発見できない、または、以前に実施された去勢の形跡(精索や精巣挙筋が切除された断端)が認められない、というシチュエーションになります。幸いにも、単精巣症の症例においても、精巣上体や精巣固有靭帯は見つかるものの、その先に精巣が存在しないという状態になることが多いため、精巣の無形成や変性症による単精巣症であるという推定診断が可能となります(精巣上体の尾側に輸精管だけ付着している事もある)。

しかし、単精巣症のなかには、精巣上体や輸精管も存在しない病態もあることが報告されており、これは、精索がより近位側(腎臓に近い側)で捻転したときに発生すると考えられています。このような症例では、無形成または変性した生殖組織の形跡が確認できないため、ありえる可能性としては、①精巣上体や輸精管の形跡を残さない単精巣症、②以前に片側去勢された馬(去勢手術が正しく記録されていなかった場合)、③腹腔内の停留精巣が見つけられていない、という三つが挙げられます。

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このうち、①は非常に稀な病態であるため、②の状況が生じた可能性を考慮して、まず以前の医療記録を調査するようにします。それでも、②の確認が出来ないケースでは、正常下降している対側の精巣を通常どおりに去勢した後、安静時の血中テストステロン濃度、または、抗ミューラー管ホルモンの測定を試みる、もしくは、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の投与後に血中テストステロン濃度の上昇が見られるかを確認します(hCG刺激試験)。もし、安静時やhCG投与後に、血中テストステロン濃度が低値であったケースでは、①または②であったという推定診断ができます。

一方、ホルモン測定で①や②が確認できなかったり、片側去勢のあとに、牡馬様の行動様式が消失しない場合には(去勢から二ヶ月以上を要することが多い)、③が起こっている可能性があります。この場合、特に一歳以下の若齢馬であれば、遅延性の精巣下降によって、停留精巣が見つかるケースもあるため、数ヶ月間隔を空けたあと、経腹壁もしくは経直腸のエコー検査で、停留精巣の再探索を試みます。また、鼠経管内の停留精巣は、初診時のエコー画像で視認できない事もあるため、これが陰嚢内に下降してくる症例もあります。

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その後、牡馬様行動やホルモン検査の陽性反応が続くという場合には、腹腔内の停留精巣が小さく萎縮している可能性があります。その場合には、全身麻酔下での開腹術を再度実施するリスクを鑑みて、腹腔鏡手術によって腹腔背側領域を精査する診断法が推奨されます。通常、背臥位での正中開腹術に比較して、起立位での腹腔鏡のほうが、消化管組織が腹側に下垂しているため、腎臓周囲組織に埋没している停留精巣を視認しやすくなることが知られています。

一方、腹腔内の停留精巣が発見できない個体に対しては、免疫学的去勢術が試みられる事もあります。この場合は、視床下部から分泌される神経ペプチドである黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)を投与して、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)への免疫を付与することで、精巣組織の機能低下を施します。また、海外では、GnRHへの自己免疫を誘導するワクチンも市販されています。しかし、免疫学的去勢は、繰り返しの投与を要して、成功率も不明瞭であるうえ、競馬での不正行為にもなり得るため、実施には賛否両論があります。

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