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子馬と成馬での小腸絞扼の違い

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ヒト医療に小児科があるのと同様に、子馬の病気に対する獣医療では、成馬とは異なる知識と技術が必要になります。

ここでは、小腸の絞扼性閉塞における治療成績を、子馬と成馬で比較した研究を紹介します。この研究では、米国の五箇所の獣医大学病院において、2000~2020年にかけて、小腸絞扼を呈して開腹術が実施された41頭の子馬(六ヶ月齢以下)、および、105頭の成馬(2~20歳齢)における、医療記録の回顧的解析、および、生存率低下に関わる危険因子を評価するためのオッズ比(OR)の算出が行なわれました。

参考文献:
Erwin SJ, Clark ME, Dechant JE, Aitken MR, Hassel DM, Blikslager AT, Ziegler AL. Multi-Institutional Retrospective Case-Control Study Evaluating Clinical Outcomes of Foals with Small Intestinal Strangulating Obstruction: 2000-2020. Animals (Basel). 2022 May 27;12(11):1374.

結果としては、小腸絞扼の手術中に安楽殺が選択されたのは、子馬では39%(16/41頭)に及んだのに対して、成馬では29%(30/105頭)に留まっていました。また、麻酔覚醒した馬のうち退院した割合は、子馬では96%(24/25頭)で、成馬では88%(66/75頭)となっていました。つまり、術中での安楽殺も含めた退院率(短期生存率)は、子馬では59%(24/41頭)であったのに対して、成馬では63%(6/105頭)とやや高くなっていました。さらに、経過追跡ができた症例のうち、退院から一年以上生存した割合(長期生存率)は、子馬では60%(3/5頭)に留まったのに対して、成馬では85%(11/13頭)に達していました。

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この研究では、短期生存率、長期生存率、手術からの生存率(術中に安楽殺とならなかった症例の割合)では、いずれも、子馬よりも成馬のほうがやや高かったものの、統計的な有意差は示されませんでした。一般的には、子馬における小腸の絞扼性閉塞では、成馬よりも予後が悪いと言われていますが、今回のように、子馬において成馬と同レベルの治療成績が示された要因としては、入院以前の段階で、重症例の子馬は淘汰されてしまった可能性が挙げられています。また、手術の執刀医が、術中の安楽殺を選択する際には、子馬の小腸絞扼は予後が悪いというバイアスが働いたのかもしれない、という考察もなされています。

過去の文献を見ると、子馬に比べて、成馬の開腹術のほうが、一般的に予後が良いことが示唆されています。たとえば、子馬における小腸の絞扼性閉塞には、空腸捻転や重責の占める割合が多く、短期生存率は27~50%に留まることが示されており[1]、また、子馬における試験的開腹術では、短期生存率が33~75%に留まるという報告もあります[2]。一方、成馬における小腸の絞扼性閉塞には、有茎性脂肪腫の割合が高いことが知られており、この場合、短期生存率は50~80%に及ぶという知見があり[3]、また、成馬における試験的開腹術では、短期生存率は80~95%に達するという報告もあります[4,5]。

この研究では、退院した馬のなかで、小腸の切除・吻合術が行なわれた割合は、子馬では38%(9/24頭)で、成馬では41%(27/66頭)となっていました。そして、切除・吻合術が短期生存率を下げる危険性は、子馬と成馬で統計的な有意差は認められませんでした(OR=1.003)。その一方で、手術後に安楽殺となった成馬のうち、小腸の切除・吻合術が行なわれた症例は56%(5/9頭)に及んでいました。

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また、この研究では、小腸捻転を呈した症例のうち退院できた割合は、子馬では92%(12/13頭)であったのに対して、成馬では76%(19/25頭)に留まっていました。そして、小腸捻転の発症が短期生存率を下げる危険性は、子馬に比べて、成馬のほうが四倍近くも高い(OR=3.84)ことが示されています。なお、外ヘルニアの発症が短期生存率を下げる危険性は、子馬に比べて、成馬のほうが約一割増しになる(OR=1.14)ことも分かりました。

これらの理由は、明瞭には特定されていませんが、子馬の症例では、腸間膜根での捻転など、広範囲の小腸が壊死する疾患の割合が多く、これらは切除不能で安楽殺となったと推測され、結果的に、切除・吻合術が選択された子馬の病態は軽度なものが多くなり、相対的に術後(入院中)の合併症の低さに繋がったのかもしれません。また、成馬の症例では、有茎性脂肪腫などの高齢馬に好発する疾患が多いことから、必然的に、切除・吻合術された馬群のなかに高齢馬が多くなり、合併症も起こし易くなった結果、退院率の低さに繋がった可能性も考えられます。

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参考文献:
[1] Vatistas NJ, Snyder JR, Wilson WD, Drake C, Hildebrand S. Surgical treatment for colic in the foal (67 cases): 1980-1992. Equine Vet J. 1996 Mar;28(2):139-45.
[2] Mackinnon MC, Southwood LL, Burke MJ, Palmer JE. Colic in equine neonates: 137 cases (2000-2010). J Am Vet Med Assoc. 2013 Dec 1;243(11):1586-95.
[3] Freeman DE, Schaeffer DJ. Age distributions of horses with strangulation of the small intestine by a lipoma or in the epiploic foramen: 46 cases (1994-2000). J Am Vet Med Assoc. 2001 Jul 1;219(1):87-9.
[4] Gardner A, Dockery A, Quam V. Exploratory Celiotomy in the Horse Secondary to Acute Colic: A Review of Indications and Success Rates. Top Companion Anim Med. 2019 Mar;34:1-9.
[5] Davis W, Fogle CA, Gerard MP, Levine JF, Blikslager AT. Return to use and performance following exploratory celiotomy for colic in horses: 195 cases (2003-2010). Equine Vet J. 2013 Mar;45(2):224-8.
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