子馬の臍帯炎の予後判定指標
話題 - 2022年10月27日 (木)

ヒト医療に小児科があるのと同様に、子馬の病気に対する獣医療では、成馬とは異なる知識と技術が必要になります。
ここでは、臍帯炎が切除された子馬における、生存を左右する因子を解析した知見を紹介します。この研究では、米国のヴァージニア大学の馬医療センターにおいて、2004~2016年にかけて、臍帯炎の外科的切除が行なわれた82頭の子馬における、医療記録の解析、および、生存率低下に繋がる危険因子のオッズ比(OR)が算出されました。
参考文献:
Reig Codina L, Werre SR, Brown JA. Short-term outcome and risk factors for post-operative complications following umbilical resection in 82 foals (2004-2016). Equine Vet J. 2019 May;51(3):323-328.
結果としては、臍帯炎が切除された子馬の生存率は89%(73/82頭)とかなり高く、最も多く感染を起こす組織は尿膜管(84%の症例)であったことが示されました。このうち、他の疾患を併発していた症例は61%に及んでおり、これには、細菌性関節炎(骨端炎を併発したケースも含めて)や下痢症が多く見られました。そして、細菌性関節炎を併発していた場合には、生存できない確率が三十倍以上も増加する(OR=33)という結果が示されました。

このため、子馬の臍帯炎においては、細菌性関節炎や下痢が続発すると予後が大きく悪化することを考慮して、関節感染や大腸炎へのアグレッシブな治療(関節洗浄、局所肢灌流、生菌剤投与、血漿輸血など)を実施することに併せて、臍部の腫脹や滲出液を認める個体においては、患部を精査して臍帯炎を早期診断し、他の疾患が続発する前に、遅延なく臍帯炎を治療することの重要性が再確認されたと言えます。その際には、腹部エコー検査を介して、特に尿膜管の箇所をチェックすることが推奨されました。
この研究では、移行抗体の摂取不全が起こった症例では、臍帯炎を発症する確率が六倍近くも上昇する(OR=5.9)というデータが示され、新生子馬に遅延なく初乳を飲ませることの大切さが再確認されました。この際には、母馬と子馬が授乳行動を取っていても、授乳量や移行抗体濃度の不足、子馬の吸収不全などが生じるリスクもあるため、感染が疑われる個体に対しては、実際の免疫グロブリンの血中濃度を測定することが推奨されています。

この研究では、臍帯炎の切除術において、麻酔時間が長い場合には、生存できない確率が四割増しになる(OR=1.4)という結果が示されました。これは、麻酔ストレスそのものが子馬の全身状態を悪化させた可能性がある一方で、長時間の手術を要する重篤な臍帯炎ほど、術後の予後が悪くなった事例もあると推測されます。このため、臍帯炎の手術では、迅速な施術に努めながらも、感染巣を取り残さないように十分に時間を掛けて病変掻把する(特に臍静脈から肝膿瘍を続発している場合)ことが重要であると言えます。
この研究の限界点としては、術前および術後での内科的治療の内容やタイミングが解析されていないことが挙げられており、適切な臍部処置や抗生物質投与が行なわれていれば、臍帯炎の手術を要しなかった症例もいたと推測されています。また、手術後に関節炎や下痢症に対する積極的治療が施されるか否かで、各個体の生存が左右された可能性も指摘されており、今後の研究での精査が必要だと考察されています。

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