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馬の眼科検査1:視診と流涙試験

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視診と脳神経検査(Cranial nerve evaluation)について。

眼科検査(Ophthalmic examination)の実施に際しては、触診(Palpation)、鎮静(Sedation)、局所麻酔(Local anesthesia)などを行う前に、両眼の視診および脳神経検査が実施することが重要です。視診では、患馬の頭部の正面に立ち、眼窩骨(Bony orbits)、眼瞼(Eyelids)、眼球(Globes)、瞳孔(Pupils)の対称性(Symmetry)を検査すると共に、眼瞼や角膜(Cornea)の外傷や腫脹(上記写真)の有無を確かめます。

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また、まつ毛の位置(Eyelash position)、目ヤニ(Ocular discharge)、まばたきの回数(Blink rate)を評価したり、眼球サイズの変化(牛眼:Buphthalmos、眼球癆:Phthisis bulbi [上記写真]、etc)と眼球位置の変化(眼球陥没:Enophthalmos、眼球突出:Exophthalmos [下記写真]、etc)を鑑別することなども重要です。

脳神経検査では、まず指先を検査眼にゆっくりと近づけ(急激な指の動きで風を起こさないように)、まばたきや頭部を背ける仕草を確かめます(=威嚇反射:Menace response)。威嚇反射の求心性経路(Afferent arm)には網膜(Retina)と視神経(Optic nerve: Cranial nerve II)が含まれ、遠心性経路(Efferent arm)には顔面神経(Facial nerve: Cranial nerve VII)の眼瞼枝(Palpebral branch)が含まれます。一般的に片側性の視神経損傷(Unilateral optic nerve damage)の症例では罹患眼に片側性盲目(Hemianopsia)を呈しますが、顔面神経麻痺(Facial nerve paralysis)の症例では眼瞼閉鎖が障害されていても視覚自体は正常であることから、指先の接近によって頭部全体を背ける仕草が認められます。

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次に、片目への閃光照射によって検査側眼の瞳孔収縮(直接反射:Direct response)と反対側眼の瞳孔収縮(間接反射:Indirect response)が起こる反応(=瞳孔反射:Pupillary response)を確かめます。この際には、片側性視神経損傷の症例では両眼とも正常な瞳孔反射を呈するのに対して、両側性視神経損傷(Bilateral optic nerve damage)では両眼とも瞳孔反射が消失します。しかし、馬においては視交差(Chiasm)で75%の視神経線維が交差するため、より多くの遠心性瞳孔運動線維(Efferent pupillomotor fibers)が同側脳(Ipsilateral side of brain)に戻ることから、正常眼においても間接反射は顕著には発生しないことを特徴とし、この現象を動的収縮瞳孔不同(Dynamic contraction anisocoria)と呼びます。

威嚇反射および瞳孔反射によって脳神経異常が疑われた症例に対しては、内側&外側眼角(Medial/Lateral canthi)に触れることで、まばたきをする反応(=眼瞼反射:Palpebral response)や、滅菌綿棒の先端などで角膜に触れることで、まばたきをする反応(=角膜反射:Corneal response)を確かめて、顔面神経および三叉神経(Trigeminal nerve: Cranial nerve V)の損傷を評価します。

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眼振(Nystagmus)と斜視(Strabismus)の検査は、動眼神経(Oculomotor nerve: Cranial nerve III)、滑車神経(Trochlear nerve: Cranial nerve IV)、外転神経(Abducent nerve: Cranial nerve VI)の三つの神経を評価するために実施され、頭部を左右に揺らして水平眼振(Horizontal nystagmus)を起こす反応(=眼球回頭反射:Oculocephalic response)を確かめる手法が有用です。また一般的には、動眼神経の異常では腹外側斜視(Ventrolateral strabismus)や眼瞼下垂(Ptosis)(上記写真)、滑車神経の異常では背内側斜視(Dorsomedial strabismus)(下記写真)、外転神経の異常では内側斜視(Medial strabismus)や眼球退縮不能(Inability to retract the globe)を引き起こすことが知られています。

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眼振が認められた症例では、内耳神経(Vestibulocochlear nerve: Cranial nerve VIII)の異常によって引き起こされる水平&回転眼振(Horizontal/rotary nystagmus)との鑑別診断を行うため、頭頂部を羅患側に傾ける捻転斜頚(Head tilt: Poll toward lesion)や羅患側への旋回運動(Circling toward lesion)などの特徴的な臨床症状(下記写真)を慎重に観察して、末梢性前庭疾患(Peripheral vestibular disease)の除外診断に努めることが重要です。

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シルマー流涙試験は、涙液生成(Aqueous tear production)の異常を確かめる試験で、馬の眼科検査(Ophthalmic examination)においては、それほど重要な診断法ではありませんが、顔面神経(Facial nerve: Cranial nerve VII)の異常が確認された症例や、角膜および結膜の乾燥(Dry cornea/conjunctiva)が認められた場合には、検査項目の一つに含まれる事もあります。

シルマー流涙試験では、試験紙の端を下眼瞼の結膜嚢(Conjunctival sac)に挿入して、60秒間にわたって試験紙が湿る長さを計測します。シルマー流涙試験では、点眼麻酔(Topical anesthesia)を使用せずに行うタイプ1試験においては、基底分泌(Basal secretion)と反射分泌(Reflux secretion)の両方を評価するのに対して、点眼麻酔を使用した後に行うタイプ2試験においては、基底分泌のみが評価されると考えられています。耳介眼瞼神経(Auriculopalpebral nerve)の局所麻酔を介しての眼瞼無動化(Eyelid akinesia)は、シルマー流涙試験の結果には有意に影響しないことが分かっています。

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馬におけるタイプ1シルマー流涙試験の正常値は、ある報告では11~30mm/60秒であることが示されており、測定値が10mm/60秒以下の症例では涙液生成の異常が示唆されますが、測定値が10~15mm/60秒の場合には、必ず再試験を行うべきであることが提唱されています。また、他の報告によれば、タイプ1試験の正常値は12.7±9.1mm/60秒で、タイプ2試験の正常値は9.9±4.25mm/60秒であることが示されています。

Photo courtesy of Gilger BC, Equine Ophthalmology, 2005, Elsevier Saunders, St Louis, Missouri (ISBN: 978-0-7261-0522-7).



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