馬の眼科検査3:染色試験
診療 - 2022年10月28日 (金)

眼科色素検査(Ophthalmic dye examination)について。
眼科色素の局所塗布は、角膜(Cornea)、結膜(Conjunctiva)、鼻涙管(Nasolacrimal duct)の疾患の診断法として重要で、角結膜の培養および細胞診(Corneoconjunctival culture and cytology)の検体採取を行った後に実施されます(眼科色素によって病原菌増殖が抑制される可能性があるため)。しかし、角膜検体の採取時に点眼麻酔(Topical anesthesia)が使用された場合には、角膜表層への色素付着によって偽陽性結果(False-positive results)を示す可能性も指摘されています。
眼科色素検査では、ナトリウム蛍光色素(Sodium fluorescein)による角膜組織の染色が最も頻繁に行われ、適応症例としては発赤、疼痛、目ヤニなどを呈した眼、眼周囲への外傷の病歴(History of periocular trauma)、角膜表面の不規則性(Corneal surface irregularity)などが挙げられます。また、流涙症状を呈した罹患眼においては、鼻涙管の通過機能の評価を目的として実施される場合もあります。

ナトリウム蛍光色素は、溶液または紙片として市販されていますが、最も簡易的な塗布手技としては、蛍光色素紙片を入れた3mLシリンジを滅菌眼洗浄液(Sterile eyewash solution)で満たして蛍光色素液を作ってから、その色素液を針筒を折った25Gの注射針を介して角膜表面に吹きつける手法が有用です(最上記写真)。その後、患馬が数回まばたきをして色素液が角膜全域に行き渡ったのを確認してから、眼洗浄液で余分な色素液を洗い流します。
一般的に蛍光色素は、角膜実質(Corneal stroma)には浸潤するものの、角膜上皮(Corneal epithelium)やデスモ膜(Descemet’s membrane)は染めないため(上図)、深部に達する角膜潰瘍(Corneal ulceration)の診断法として有効です(下記写真)。しかし、角膜上皮の微細嚢胞(Microcysts)や部分層微細壊死(Partial-thickness micronecrosis)では、微量の染色液が拡散性染色(Diffuse staining)を示す場合もあります。

また、全層角膜傷害(Full-thickness corneal injury)の確定診断や、角膜縫合(Corneal suture)の部位の密封性を確認する目的で、眼瞼の無動化(Eyelid akinesia)を施した眼に色素液を吹き付けてから、洗浄せずに液の色の変化を紫外線ライトで観察する手法(いわゆるセイデル試験:Seidel test)が応用される症例もあります。この際には、紫外線下において、正常眼では色素液が黄色~オレンジ色に見えるのに対して、眼房水漏出(Aqueous humor leakage)を起こした眼では、色素液が漏出箇所において部分的に緑色に見えます。
眼科色素検査に用いられる他の色素としては、ローズベンガル色素液(Rose Bengal dye solution)が挙げられ、この色素は変性細胞(Degenerating cells)や粘液(Mucus)を顕著に染めることから、涙液層(Tear film)の欠損部位を確かめる手法として有用です。また、初期病態の真菌性角膜潰瘍(Early fungal corneal ulcer)では、ナトリウム蛍光色素液には陰性を示しても、ローズベンガル色素液には陽性を示す場合もあることが報告されています(下記写真)。

Photo courtesy of Gilger BC, Equine Ophthalmology, 2005, Elsevier Saunders, St Louis, Missouri (ISBN: 978-0-7261-0522-7).
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