馬の眼科検査5:眼圧検査
診療 - 2022年10月29日 (土)

眼圧検査(Tonometry)について。
眼内圧の測定(Measurement of intraocular pressure)は、圧平眼圧測定法(Applanation tonometry)による角膜緊張(Corneal tension)の評価を介して行われることが一般的です(=間接眼圧検査:Indirect tonometry)。馬における眼圧検査の適応症としては、角膜浮腫(Corneal edema)、眼窩外傷(Orbital trauma)、水晶体脱臼(Lens luxation)などが挙げられ、また、緑内障(Glaucoma)の診断が下された馬における、内科治療中の眼内圧モニタリングや、対側眼(Contralateral eye)の緑内障スクリーニングの目的で実施される場合もあります。
馬の眼圧検査は、鎮静剤(Sedation)および点眼麻酔(Topical anesthesia)を使用して実施されることが一般的ですが、鎮静剤の投与によって眼内圧の顕著な降下が起こり、緑内障の偽陰性結果(False-positive results)を示す可能性も報告されています。また、耳介眼瞼神経(Auriculopalpebral nerve)の局所麻酔による眼瞼無動化(Eyelid akinesia)を介することなく眼圧検査を行うと、眼瞼の緊張(Eyelid tension)によって眼内圧の上昇につながるという仮説も成されています。測定値の誤差は検査機器の違いによっても生じ、ペンタイプの圧平眼圧測定装置では、眼内圧がやや過小評価(Underestimation)される傾向にあることが知られています。

緑内障や回帰性ブドウ膜炎(Recurrent uveitis)の罹患馬における眼圧検査では、測定値に大きな日内周期変動(Large diurnal fluctuation)が見られる場合も多いため、同一検査日に複数回にわたる頻繁な眼圧測定を行う必要がある症例も見られます。また、角膜疾患(Corneal disease)を併発した症例では、出来るだけ健常な角膜表面部位に対して、圧平眼圧測定装置を用いることが大切です。
馬の眼内圧の正常値は、報告事例によって多少の誤差がありますが、耳介眼瞼神経の局所麻酔を行わない状態では、24.5±4.0mmHg、または28.6±4.8mmHgであることが示されています。また、他の報告では、耳介眼瞼神経の局所麻酔を行った状態での眼内圧は、左目(OS: oculus sinister)では17.1±3.9mmHg、右目(OD: oculus dexter)では 18.4±2.2mmHgであった事が報告されています。さらに眼内圧は頭部の高さによっても差異を生じ、頭部が心臓よりも高い位置にある場合の眼内圧は17.5±0.8mmHg、頭部が心臓よりも低い位置にある場合の眼内圧は25.7±1.2mmHgであったという報告もあります。

馬の眼圧検査では、通常は測定値が30~35mmHg以上であった場合には、緑内障などの眼疾患につながるほどの異常な眼内圧上昇を生じている、という判断を下しても構わないことが提唱されています。しかし、緑内障の推定診断(Presumptive diagnosis)のためには、散瞳(Mydriasis)などの特徴的な臨床症状の確認したり、生体顕微鏡検査(Biomicroscopy)、眼底検査(Ophthalmoscopy)、他の眼病の除外診断等を併行して実施することが重要です。また、緑内障の罹患馬における内科治療中の経過モニタリングでは、眼内圧を20mmHg以下に維持する指針が示されています。
Photo courtesy of Gilger BC, Equine Ophthalmology, 2005, Elsevier Saunders, St Louis, Missouri (ISBN: 978-0-7261-0522-7).
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