馬の眼科検査8:鼻涙管造影
診療 - 2022年10月30日 (日)

鼻涙嚢造影術(Dacryocystorhinography)について。
鼻涙嚢造影術は、鼻涙管(Nasolacrimal duct)の内部に造影剤を通過させてレントゲン検査を行う診断法で(上記写真)、鼻涙管通過障害(Nasolacrimal duct obstruction)、無孔鼻側涙点(Imperforate nasal punctum)、鼻涙管偏位(Nasolacrimal duct deviation)の診断のために実施されます。鼻涙管内へは通常3~5mLの造影剤が注入され、側方向(Lateral)、背腹方向(Ventrolateral)、斜位方向(Oblique)などのレントゲン撮影を介して、造影剤の停滞部位や鼻涙管の狭窄部位を検査します。

馬の鼻涙管は、全長が24~30cmであることが一般的で、鼻側涙点からの起始部では内径が2mm、それより遠位部では3~4mmの内径であることが示されています。しかし、馬の鼻涙管は、正常な状態であっても、涙管導管(Lacriminal canal)を通過する箇所で内腔が狭くなったり(上記写真のC、下記写真のC&D)、翼状襞(Alar fold)のS字型軟骨(Sigmoid cartilage)によって圧迫される箇所で内腔が平坦化(上記写真のD、下記写真のE)することが知られており、これらの箇所と鼻涙管通過障害の発症部位との鑑別を行うことが重要です。

鼻涙嚢造影術の適応症状としては、慢性流涙症(Chronic epiphora)、顔面骨骨折(Facial bone fracture)、慢性結膜炎(Chronic conjunctivitis)などが挙げられます。また、眼科色素検査(Ophthalmic dye examination)による角膜染色を実施した後、20分以上経っても眼瞼側涙点(Palpebral punctum)から鼻側涙点(Nasal punctum)へと蛍光染色が流れ出す所見(下記写真)が認められない症例においても、鼻涙嚢造影術による鼻涙管通過機能の評価が試みられる場合もあります。

鼻涙管の異常が疑われた症例では、鼻側涙点もしくは眼瞼側涙点に挿入したシリコン製カテーテル(Silastic catheter)を介して、シリンジで生食を注入する診断&治療法が用いられます(下記写真)。しかし、この手法では鼻涙管の不完全通過障害(Incomplete obstruction)や偏位を呈した場合には、圧力を掛けた状態での生食の通過は確認されても、自然な状態では涙液の排出は不十分である可能性もあるため、正確な鼻涙管の通過障害の診断や異常発生部位の特定のためには、鼻涙嚢造影術を実施するべきであるという提唱が成されています。

Photo courtesy of Gilger BC, Equine Ophthalmology, 2005, Elsevier Saunders, St Louis, Missouri (ISBN: 978-0-7261-0522-7).
このエントリーのタグ:
検査