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SAAによる牝馬の胎盤炎の診断

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血清アミロイドエー(SAA: Serum amyloid A)は、急性期蛋白の一つで、炎症発生から36~48時間で血中に増加することから、炎症病態の早期診断に有用であると言われており、馬においても、呼吸器疾患を探知する目的などで臨床応用されています。

ここでは、妊娠牝馬の胎盤炎を早期診断する目的で、SAA測定の有用性を評価した知見を紹介します。この研究では、実験的に胎盤炎を作成した牝馬、および、健常な対照馬において、血液および組織検体におけるSAAとハプトグロブリン(Hp)の濃度測定、および、遺伝子活性(mRNA転写物の相対的存在量)の解析が行なわれました。

参考文献:
Boakari YL, Esteller-Vico A, Loux S, El-Sheikh Ali H, Fernandes CB, Dini P, Scoggin KE, Cray C, Ball BA. Serum amyloid A, Serum Amyloid A1 and Haptoglobin in pregnant mares and their fetuses after experimental induction of placentitis. Anim Reprod Sci. 2021 Jun;229:106766.

結果としては、妊娠牝馬の血中SAA濃度は、胎盤炎の発症馬のほうが対照馬よりも有意に高いことが分かり(Hp濃度は有意差なし)、また、胎児の血中Hp濃度は、胎盤炎の発症馬の胎児のほうが、対照馬の胎児よりも有意に高くなっていました。そして、血中のSAAおよびHp濃度は、母馬のほうが胎児よりも有意に高くなっていました(いずれも胎盤炎の状態)。このため、妊娠牝馬の血中SAA濃度を経時的に測定することで、胎盤炎の早期診断に役立つという考察がなされています。

この研究では、SAAおよびHpの遺伝子活性は、対照馬に比較して、胎盤炎の牝馬の肝臓や漿尿膜で有意に増加していました。また、SAA関連蛋白の濃度は、胎盤炎の牝馬の子宮内膜実質や漿尿膜の炎症性細胞に存在していることも確認されました。一方、SAAをコードしているSAA1遺伝子の活性は、胎盤炎の牝馬の漿尿膜に限定して認められたことから、SAA1の免疫性反応が起こっている可能性もあると考察されています。

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他の研究[1]では、妊娠牝馬に対して、実験的に胎盤炎を誘発した直後から、血中のSAA濃度とHp濃度が急激に上昇しており、その後は、流産の発生(胎盤炎誘発の5~25日後)までのあいだ、高濃度を維持していました。なお、牝馬の血中フィブリノーゲン濃度や白血球数は、有用な胎盤炎の診断指標にはならず、分娩によるSAA/Hp濃度の上昇も認められませんでした。このため、牝馬の妊娠期間中には、血中のSAA/Hp濃度を経時的に測定することで、胎盤炎の早期診断が可能であるという考察がなされています。

その他の研究[2]では、妊娠牝馬に対して、実験的に胎盤炎を誘発すると、その96時間後までにSAA濃度が上昇することが示されており、また、胎盤炎の治療を行なった場合には、66%の牝馬でSAA濃度の上昇が抑えられました。そして、治療の結果として、SAA濃度が上昇してしまった牝馬のうち、流産したのは75%(6/8頭)に上ったのに対して、SAA濃度が無変化だった牝馬では、流産したのは0%(0/6頭)であったことが報告されています。

このため、妊娠牝馬の血中SAA測定によって、胎盤炎の早期診断ができることに加えて、胎盤炎の治療中にも、血中SAA濃度を経時的にモニタリングすることで、胎盤炎の治癒や流産防止が出来ているかを診断できるという可能性も示唆されています。なお、健常な妊娠牝馬では、妊娠期間中にはSAA濃度は変化せず、出産の36時間後までに有意に上昇した後、60時間後までには出産前の値まで戻ることが分かりました。このため、妊娠後期における血中SAA濃度の上昇は、胎盤炎などの病的状態に対する特異性が高いと考察されています。

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関連記事:
・SAAによる馬の輸送熱の診断
・SAAによる馬の滑膜感染の診断

参考文献:
[1] Canisso IF, Ball BA, Cray C, Williams NM, Scoggin KE, Davolli GM, Squires EL, Troedsson MH. Serum amyloid A and haptoglobin concentrations are increased in plasma of mares with ascending placentitis in the absence of changes in peripheral leukocyte counts or fibrinogen concentration. Am J Reprod Immunol. 2014 Oct;72(4):376-85.
[2] Coutinho da Silva MA, Canisso IF, MacPherson ML, Johnson AE, Divers TJ. Serum amyloid A concentration in healthy periparturient mares and mares with ascending placentitis. Equine Vet J. 2013 Sep;45(5):619-24.
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