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老齢馬の疝痛手術での生存率

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近年では、獣医療の進歩に伴って、馬の寿命も延びてきており、老齢馬の病気や医療ケアにおける重要性も高まってきていると言えます。

ここでは、老齢馬の疝痛に対する開腹術における、生存率やそれに関わる因子を調査した知見を紹介します。この研究では、米国のフロリダ州の二次診療病院において、1997~2007年にかけて、疝痛の治療のために開腹術が行なわれた56頭の老齢馬(20歳以上)、および、487頭の対照馬における医療記録の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Krista KM, Kuebelbeck KL. Comparison of survival rates for geriatric horses versus nongeriatric horses following exploratory celiotomy for colic. J Am Vet Med Assoc. 2009 Nov 1;235(9):1069-72.

結果としては、疝痛手術からの短期生存率は、老齢馬では50%(28/56頭)に留まっていたのに対して、対照馬では72%(352/487頭)に達していました(退院できた馬を短期生存とした場合)。また、開腹術のあとの入院中に安楽殺となった馬は、老齢馬では18%、対照馬では11%で大差が無かったものの、開腹術中に安楽殺となった馬は、老齢馬では39%に上っており、対照馬(18%)よりも有意に高くなっていました。そして、老齢馬における術中安楽殺の要因としては、予後不良が予測される絞扼性病変の存在が約八割を占めており、経済的な事情が、安楽殺の判断に関与した症例も多かったと報告されています。

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この研究では、術後の入院中に安楽殺となった老齢馬は七頭で、このうち、最も多い要因は疝痛症状の再発で(四頭)、次いで、大腸炎、蹄葉炎、代謝性疾患となっていました(何れも一頭)。一方、術後安楽殺となった対照馬においても、最も多い要因はやはり疝痛再発で(54%)、他には、蹄葉炎、腹膜炎、腸破裂などが含まれました。このため、開腹術のあとの入院中に安楽殺となる割合や要因には、老齢馬と対照馬のあいだで有意差が無かったことが分かりました。

この研究では、小腸疾患を呈した馬の割合は、老齢馬では61%に及び、対照馬(29%)よりも有意に高くなっていました。また、老齢馬での小腸疾患の内訳は、有茎性脂肪腫が約八割を占めており、対照馬のそれ(約五割)よりも有意に多いことが分かりました。そして、小腸疾患を呈した馬の短期生存率は、老齢馬では35%に留まり、対照馬(54%)よりも低くなっていました。さらに、小腸疾患が非絞扼性であった場合の短期生存率は、老齢馬(63%)と対照馬(77%)で有意差はありませんでした。このため、老齢馬の疝痛での死亡率の高さは、有茎性脂肪腫などの絞扼を伴う小腸疾患の多さが要因となっていることが示唆されました。つまり、老齢馬の疝痛では、腹部エコーなどで小腸疾患を精査することが重要であり、また、絞扼による小腸壊死が懸念されるため、若齢馬よりも更に早期の開腹術を適応することが推奨されます。

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この研究では、結腸疾患を呈した馬の割合は、老齢馬では23%に過ぎず、対照馬(58%)よりも有意に低くなっていました。また、これらの結腸疾患のうち、絞扼性の疾患の割合は、老齢馬(8%)と対照馬(14%)で有意差はありませんでした。そして、結腸疾患を呈した馬の短期生存率は、老齢馬では92%に達しており、対照馬(82%)と有意差はありませんでした。このため、老齢馬の疝痛においても、原因が結腸の疾患であれば、若齢馬と大差のない生存率が期待されることが分かりました。なお、盲腸や小結腸の疾患を見ても、有病率や生存率は、老齢馬と対照馬で同程度でした。

この研究では、退院後の経過追跡ができた馬のうち、疝痛手術からの長期生存率は、老齢馬では70%(14/20頭)であり、対照馬の長期生存率である84%(108/129頭)と有意差はありませんでした(術後に一年以上生存した馬を長期生存とした場合)。また、退院後に安楽殺となった老齢馬を見ると、要因の五割が蹄葉炎で、三割が疝痛となっていましたが、これらが、開腹術で整復された一次病態と関連があったか否かは報告されていませんでした。このため、老齢馬の疝痛においても、開腹術からの覚醒と退院が達成されれば、若齢馬と大差のない長期生存率が期待されることが分かりました。

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この研究では、調査対象の十年間において、疝痛手術が適応された老齢馬がたった56頭であったことを考えると、往診獣医師の判断で開腹術を断念したケースも多かったと推測されます。また、この56頭のうち、25~29歳は14頭(25%)で、30歳以上は四頭(7%)のみでした。このため、この研究で示されたような比較的高い術後退院率(82%)や長期生存率(70%)が、全ての老齢馬の疝痛に当てはまるか否かは不明瞭であると言え、25歳以上の高年齢や、全身状態の重篤さによっては、若齢馬よりも予後が悪くなるケースもあり得ると考えられました。

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