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老齢馬の行動と放牧飼いの関連性

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近年では、獣医療の進歩に伴って、馬の寿命も延びてきており、老齢馬の福祉に則した飼養管理法の確立が重要になってきています。

ここでは、老齢馬の一日の行動様式を、異なる飼養管理環境で比較した知見を紹介します。この研究では、オーストラリアの五箇所の牧場において、老齢馬(20歳以上)または慢性跛行で休養中の馬を対象として、頭絡に取り付けた自動追跡装置を用いて、厩舎飼い、パドック飼い、放牧飼いにおける行動様式の違いが解析されました。

参考文献:
Kelemen Z, Grimm H, Vogl C, Long M, Cavalleri JMV, Auer U, Jenner F. Equine Activity Time Budgets: The Effect of Housing and Management Conditions on Geriatric Horses and Horses with Chronic Orthopaedic Disease. Animals (Basel). 2021 Jun 23;11(7):1867.

結果としては、老齢馬と慢性跛行馬の行動様式は類似することが示され、一日のうち摂食行動に当てる時間の割合は、放牧飼いでは48%に達しており(下記の円グラフ)、厩舎飼い(35%)よりも有意に高いことが分かりました(パドック飼いでは45%)。また、摂食行動に当てる割合を、一日の時間帯を通して比べてみると、放牧飼いでは、早朝から夜の長い時間帯に掛けて、摂食行動の割合がずっと高い水準を維持しているのに対して、厩舎飼いでは、朝夕の飼い付けの時間帯に、摂食行動が偏っているという傾向が認められました(下記の折れ線グラフ)。

このため、老齢馬の飼養環境としては、放牧飼いにすることで、摂食に当てる総時間が長くなり、かつ、より長い時間帯に分散して摂食行動を取ることから、消化器疾患の予防に繋がると推測されました。一方、厩舎飼いでは、摂食に当てる総時間が短く、しかも、飼い付けの時間帯に集中して摂食行動を取るという現象が、再確認されるデータが示されたと言えます。また、五箇所の牧場同士を比較すると、摂食の総時間および時間帯を見ても、牧場間でのバラつきが大きく、飼い付けなどの管理方法に多様性があることも確認されました。

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この研究では、馬が取った活動回数もカウントしており、それを一日の時間帯を通して比較してみると、厩舎飼いやパドック飼いに比較して、放牧飼いでは、昼過ぎから夕方に掛けての活動回数が顕著に増加することが示されました(下記の折れ線グラフ)。言い換えると、厩舎飼いやパドック飼いでは、一日中殆どの時間帯で、馬が退屈してジッとしている割合が多いことが、行動データとして如実に示されたと言え、放牧飼いすることが、老齢馬の精神的な健康のためにも有益であると考えられました。なお、放牧飼いでの活動回数においても、牧場間で大きな多様性が認められていました。

以上の結果から、老齢馬の飼養においては、厩舎飼いよりも放牧飼いを選択することで、一日の時間の半分近くを摂食に当てるという、本来の馬の行動様式に近い生活を送らせることが可能となり、精神的な退屈さも少なく抑えられることが示唆されました。その一方で、調査対象となった五箇所の牧場を比べると、摂食時間の偏りや活動回数などに多様性が認められることから、たとえ厩舎飼いしか選択肢が無い施設や環境であっても、各牧場において、馬のウェルフェア向上に繋がるような飼養管理法のコツや方針が存在していると推測されており、今後の更なる調査が有益であると考察されています。

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