馬の眼瞼下洗浄システムの設置方法
診療 - 2022年11月05日 (土)

眼瞼下洗浄システム(Subpalpebral lavage system)について。
眼瞼下洗浄システムは、最も確実かつ簡易に眼&眼瞼へと治療薬を作用させる手法で、患馬へのストレスを最小限に抑えながら、4~8時間おきの頻繁な投薬を可能とします。また、退院後または往診後に、馬主&管理者自身による治療継続を選択肢にできることから、大幅な治療費の削減を期待することが出来ます。

最も一般に応用される上眼瞼への眼瞼下洗浄システムの設置に際しては、前頭神経(Frontal nerve)の局所麻酔による眼瞼の無痛化(Analgesia)と、耳介眼瞼神経(Auriculopalpebral nerve)の局所麻酔による眼瞼の無動化(Akinesia)の両方が必要となります。また、洗浄管を設置するための針穿刺を行う眼瞼部位(一箇所または二箇所)における皮下浸潤麻酔が併用されることが一般的です。

単孔式の眼瞼下洗浄システム(Single-hole subpalpebral lavage system)(最上写真A)が設置される場合には、洗浄管の末端にフットプレート(上記写真)を有する市販キットが用いられます。術者は上眼瞼を持ち上げ、穿刺針を内側または外側の結膜円蓋陥凹(Recess of conjunctival fornix)から眼窩縁近辺(Near the orbit rim)を目掛けて挿入し、この針筒内に洗浄管を通過させてから針を上部へと引き抜くことで、洗浄管を眼瞼組織全層に貫通&通過させます(上図)。洗浄管はその全長を上部へと引き出しフットプレートを結膜円蓋の最深部へと位置させることで、医原性の角膜刺激(Iatrogenic corneal irritation)を予防します。

市販キットを使用せず手製のチューブを用いての、二孔式の眼瞼下洗浄システム(Double-hole subpalpebral lavage system)(最上写真B)が設置される場合には、上述の手順を内側および外側の眼瞼に対して4~5cm間隔に実施します(上図)。その後、内側眼瞼に通過させた方の洗浄管に結び目を作ってから、眼瞼内に位置する部位の管に針で数箇所の穴を開けて、眼瞼下へと引き戻します(下図)。

前頭部へと通過させた洗浄管は、テープを貼り付け皮膚に縫合することで、管が眼瞼下へとずれ込み角膜刺激を起こすのを予防します(下記写真)。頚部へと伸展させた洗浄管は、編んだタテガミの根元を通過させてから、その末端に留置針と注射キャップによる治療薬の注入部位を設けます(下記写真)。この際には、洗浄管の末端をTongue depressorなどの木片に貼り付けることで、治療薬の注入を容易にする手法が有効です(下記写真)。

単孔式システムは市販キットを使用するため、二孔式システムよりも多少高価になりますが、眼瞼組織への針穿刺が一箇所で済むため、より素早く安全にシステムの設置および除去が可能となります。また、二孔式システムでは、眼瞼下部に位置していた洗浄管が前後にずれた場合に、開けた穴から漏れた治療薬が皮下に迷入して炎症反応を起こす危険があります。
Photo courtesy of Gilger BC, Equine Ophthalmology, 2005, Elsevier Saunders, St Louis, Missouri (ISBN: 978-0-7261-0522-7).
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