馬の眼瞼裂傷の縫合法
診療 - 2022年11月05日 (土)

眼瞼裂傷(Eyelid laceration)の縫合法について。
眼瞼は血液供給が豊富で、治癒の活発な組織であるため、ほぼ全ての眼瞼裂傷の病態において外科的整復を試みるべきであることが提唱されています。また、眼瞼端(Eyelid edge)の再生は起こりにくいため、垂れ下がっている眼瞼組織片(Hanging lacerated eyelid fragment)も切除せず縫合癒合させ、壊死組織の病変清掃(Necrotic tissue debridement)も最小限にとどめるべきであるという警鐘が鳴らされています。

外科治療の前には、裂傷部位を生食で洗浄して異物を洗い流し、アイスパックやDMSO塗布剤の使用によって眼瞼浮腫(Eyelid edema)の減退が試みられる事もあります。眼瞼縫合においては、通常は眼瞼の無痛化(Analgesia)と無動化(Akinesia)の両方が必要とされ、このうち眼瞼の無動化は耳介眼瞼神経(Auriculopalpebral nerve)、もしくは耳介眼瞼神経の眼瞼分枝(Palpebral branch)の局所麻酔によって達成されます。上眼瞼(Upper eyelid)の無痛化は、前頭神経(Frontal nerve)および涙腺神経(Lacrimal nerve)の局所麻酔によって達成されます(上記写真)。一方、下眼瞼(Lower eyelid)の無痛化は、前頭神経(Frontal nerve)、滑車下神経(Infratrochlear nerve)、頬骨神経(Zygomatic nerve)の局所麻酔によって達成されることが一般的です(下記写真)。

眼瞼を縫合する際には、永続性の眼瞼端欠損部(Permanent eyelid defect)が生じるのを防ぐため、裂傷端同士をまず最初に癒合させることが重要で、裂傷端の皮膚同士を八の字縫合パターン(Figure-eight suture pattern)によって整復することで、裂傷端がずれるのを予防する手法が有効です(最上図B)。次に眼瞼結膜(Palpebral conjunctiva)の縫合が行われ、この際には縫合糸の結び目を角膜側へ露出させないことが重要です(最上図C)。最後に眼瞼皮膚層の縫合が行われ、この際には縫合糸の結び目が縫合線の真上に位置しないように調節することが大切です(最上図D)。
Photo courtesy of Gilger BC, Equine Ophthalmology, 2005, Elsevier Saunders, St Louis, Missouri (ISBN: 978-0-7261-0522-7).