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馬の結膜フラップについて

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結膜フラップ(Conjunctival flap)について。

結膜フラップは、潰瘍(Ulceration)などの創傷性に生じた角膜欠損部位(Traumatic corneal defect)を覆い、血液および栄養供給(Blood/Nutritional supply)を施し、細菌や真菌などの病原菌への免疫抵抗を付加することで、角膜組織の治癒を促す目的で実施されます。結膜フラップは、角膜実質(Corneal stroma)に及ぶ深部潰瘍(Deep ulcer)、および深部潰瘍に続発するデスメ膜瘤(Descemetocele)の治療に有効で、内科療法に不応性(Refractory)を示す細菌性角膜炎(Bacterial keratitis)や真菌性角膜炎(Fungal keratitis)にも応用されます。

結膜フラップの術式としては、茎状結膜フラップ(Pedicle conjunctival flap)(上記写真A)、橋状結膜フラップ(Bridge conjunctival flap)(上記写真B)、フード状結膜フラップ(Hood conjunctival flap)(上記写真C)などが用いられます。このうち、潰瘍病巣のサイズが大きい場合には、茎状結膜フラップよりも良好な血流供給が可能な橋状結膜フラップが選択されることが多く、また、潰瘍病変が角膜周辺部位(Peripheral corneal surface)に存在する症例においては、フード状結膜フラップが選択されることが一般的です。



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茎状結膜フラップでは、角膜縁(Limbus)から1~2mmの眼球結膜(Bulbar conjunctiva)において、角膜縁に沿って内側切開創を設けた後(上図A)、切開ラインを眼球の外側へと反転させながら外側切開創を伸展させます(上図B)。この際には、潰瘍病変の位置に応じて内側&外側切開創の終止位置を決定すること(茎状結膜を45度以上の角度で回転させなくて済むようにするため)、角膜縁から潰瘍部位までの距離に応じて内側&外側切開創の長さを決定すること、外側切開創は内側切開創よりも短くすること(フラップを設置した際に結膜組織への充分な血流を維持するため)、フラップの幅(=内側と外側切開創のあいだの距離)は潰瘍病巣の幅よりも数mmほど広くすること、などが大切です。結膜フラップの設置に際しては、潰瘍部位の病巣清掃(Debridement)を行った後(最上図)、茎状に切開した結膜を角膜表面へと回転させて、茎の先端部分を潰瘍病巣周囲に縫合固定してから(上図C)、茎の幹部分を角膜表面へと縫合し、結膜の切開部位も縫合閉鎖します(上図D)。



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橋状結膜フラップでは、角膜縁から1~2mmの眼球結膜において、角膜縁に沿って内側切開創を設けた後、それに平行になるように外側切開創を設けます(上図A、上図B)。この際には、外側切開創の端を円蓋側へと僅かに曲げること(Outer incision deviated toward fornix)、外側切開創は内側切開創よりも短くすること、フラップの幅は潰瘍病巣の幅よりも数mmほど広くすること、などが大切です。切開創は可能な限りにおいて、外側眼球結膜(Lateral bulbar conjunctiva)に設けることで、フラップ設置後に橋状結膜を垂直方向に走行させて、まばたきによるフラップ部位への負荷を最小限に抑えることが重要です(上図A)。結膜フラップの設置に際しては、潰瘍部位の病巣清掃を行った後、橋状に切開した結膜を角膜表面へと滑らせて潰瘍病巣周囲に縫合固定してから(上図C)、橋の幹部分を角膜表面へと縫合し、結膜の切開部位も縫合閉鎖します(上図D)。



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フード状結膜フラップでは、眼球結膜を円蓋側に向けて剥離させます(上図A、上図B)。結膜フラップの設置に際しては、潰瘍部位の病巣清掃を行った後、フード部位の結膜を角膜表層へと引き出し、そのフードの両縁を結膜辺縁へと縫合固定してから(上図C)、潰瘍病変周囲においてもフード部位の結膜を角膜表面に縫合します(上図D)。症状が進行した感染性角膜炎において、角膜の溶解から虚弱化した表層組織が縫合糸を保持できないと判断された症例に対しては、フード状結膜フラップを全周に実施してから、上下のフード状結膜を眼球中央へと引き出し、結膜同士を縫合する術式が用いられる場合もあります(=360度フラップ)(下図)。

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結膜フラップが実施された患馬では、その術式に関わらず、術後の14~21日後において、フラップ部位の周囲から充分な血管新生(Neovascularization)および肉芽組織形成(Granulation tissue formation)が確認された時点で、角膜表層に縫合された結膜組織の除去手術が行われることもあります。ただ、馬の視野を重度に阻害していないようであれば、除去せずそのままにして、角膜表層に縫合された結膜組織の線維化と拘縮を促すこともあります。

Photo courtesy of Gilger BC, Equine Ophthalmology, 2005, Elsevier Saunders, St Louis, Missouri (ISBN: 978-0-7261-0522-7).

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