馬の瞼板縫合術
診療 - 2022年11月06日 (日)

瞼板縫合術(Tarsorrhaphy)について
瞼板縫合術は、上下の瞼板を縫合閉鎖して眼瞼の開閉性を止める手法で、顔面麻痺(Facial paralysis)や眼瞼腫脹(Eyelid swelling)によって眼瞼の閉鎖が出来ない症例や、様々な角膜手術(Corneal surgery)の術後に角膜表層の術野を保護する目的で実施されます。
角膜手術の術後症例に対しては、一般的に一時性瞼板縫合術(Temporary tarsorrhaphy)が応用されます(上図)。この術式では、眼瞼裂溝(Palpebral fissure)の三~四箇所において、水平マットレス縫合(Horizontal mattress suture)を施して眼瞼への張力を分散させます。この際には、皮膚表面の水平部位の縫合糸をゴムチューブに通過させることで、糸によって皮膚組織が切断されるのを予防します。また、内側眼角(Medial canthus)を僅かに開けておく事で、眼性浸出物(Ocular discharge)の排出を促すことが重要です。

側頭舌骨変形性関節症(Temporohyoid osteoarthropathy)等を起こした症例において、眼瞼の遷延性閉鎖(Prolonged closure)が必要とされると予想される場合には、一般的に永続性瞼板縫合術(Permanent tarsorrhaphy)が応用されます(上図)。この術式では、一時性瞼板縫合術と同様に、眼瞼裂溝の二~三箇所において、水平マットレス縫合を施しますが、縫合部位の眼瞼縁に切開創(長さ3~5mm、深さ5~7mm)を設けることで、縫合後に眼瞼縁同士が充分な癒着(Adhesion)を起こすことを促します。この際には、切開創をマイボーム腺(Meibomian grand)および眼輪筋(Orbicularis oculi muscle)よりも内側に設けてこれらの組織を傷付けないこと、切開創を結膜面に平行に設けること、縫合糸の結び目を結膜および角膜面に露出させないこと、等に注意することが重要です。
原発疾患の治癒が認められ、眼瞼閉鎖が必要でないと判断された時点で、癒着部位を切開遊離することで眼瞼の開閉性を回帰させます。側頭舌骨変形性関節症における予後は個体差が大きく、顔面麻痺症状の回復には発症後の一ヶ月~十八ヶ月を要することが報告されています。
Photo courtesy of Ollivier FJ, “Medical and Surgical Management of Melting Corneal Ulcers Exhibiting Hyperproteinase Activity in the Horse”, Clin Tech Equine Pract 2005; 4: 50-71, and Divers TJ, Ducharme NG, Lahunta AD, Irby NL, Scrivani PV, “Temporohyoid Osteoarthropathy”, Clin Tech Equine Pract 2006; 5: 17-23.
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