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馬の切腱術の術式

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馬の深屈腱の切断術(切腱術)についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。

馬の切腱術は、管部中央部または繋部での施術が可能で、どちらの手法でも、深屈腱から蹄骨に掛かる緊張力を緩和する効果が期待されます。しかし、通常は、管部中央部での切腱術が選択される場合が多く、その要因としては、手技が簡易であること、立位での施術が可能であること、腱鞘組織への侵襲が無いこと、術後の創部感染のリスクが少ないこと、蹄関節の不安定にする副作用が少ないこと、などが挙げられます。一方、繋部での切腱術は、全身麻酔下で実施されることが多く、二度目の切腱術が必要になったときに選択されるべきとされています。切腱術の前には、罹患肢の蹄に蹄踵伸長させた蹄鉄を装着させて、蹄関節の過伸展や亜脱臼を予防する措置を講じておきます。

管部中央部での切腱術は立位で実施され、球節から手根部までの皮膚を全周剃毛して、鎮静剤を投与した後、近位管部の神経麻酔(リングブロック)を施します。そして、創部消毒とドレーピングの後、管部の近位1/3の箇所を中心にして、深屈腱の外側面に皮膚切開創を設け(上図Aの点線)、皮下識と腱膜まで切り進めます。その後、ケリー鉗子(曲)を用いて、脈管神経束、支持靭帯、浅屈腱などから深屈腱を分離させてから(上図B)、深屈腱の裏側にケリー鉗子(直)を通して皮膚縁まで通過させることで、切開創の外へと深屈腱を持ち上げます(上図C)。この際、内側の脈管神経束を一緒に持ち上げていないことを十分に確認してから、メス刃で深屈腱を切断します(上図Cの点線)。もし、深屈腱の一部や腱膜が繋がっていなければ、完全に切断することで、深屈腱に1~3cmの間隙が生じます。その後、皮下識を吸収糸で連続縫合してから、皮膚を非吸収糸で単純結節縫合します。

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繋部での切腱術では、全身麻酔下で横臥位に保定した後、創部消毒とドレーピングを施してから、繋ぎの掌側面で、蹄球から近位1cmの位置から近位方向へ3cmの皮膚切開創(正中線上)を設けます(上図A)。そして、皮下識と腱鞘壁を切開することで深屈腱を露出させ、深屈腱の裏側にケリー鉗子(直)を通して深屈腱を持ち上げます。深屈腱の裏側には腱鞘壁があるため、冠関節包や種子骨靭帯を損傷する心配はありません。そして、メス刃で深屈腱を切断することで、6~10cmの間隙が生じることを確認します(この部位では深屈腱が二脚に分離していることに注意する)。その後、腱鞘壁および皮下識を吸収糸で連続縫合してから、皮膚を非吸収糸で単純結節縫合します。なお、上図の(a)は深屈腱、(b)は腱鞘、(c)は皮下識を示しています。

また、管部中央部および繋部での切腱術のいずれにおいても、穿刺切開創を開けるだけの術式も可能です。この場合には、上述の切開部に、1cmの穿刺切開創を設けた後、鉗子を挿入して深屈腱を分離してから、真っ直ぐの柳葉刀(Straight bistoury knife)を挿入して、深屈腱の切断処置を行ないます(下図)。この際には、脈管神経束などの重要な組織を触診し、用手で刃先から遠ざけながら腱を切っていくようにします。柳葉刀で盲目的に腱を切断する際には、腱の一部や腱膜を切り残すことがあるため、切断後に深屈腱の断端に十分な間隙が生じるかを、触診またはエコー検査で確認するようにします。

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切腱術の術後には、圧迫バンテージを六週間は装着させて腫脹や術創感染を防ぎ、二週間目に抜糸します。この期間は完休とし、疼痛の度合いに応じて非ステロイド系抗炎症剤を投与します。また、蹄踵伸長させた装鉄を続けて、蹄関節の亜脱臼を予防することが重要で、数週間おきのX線検査で、蹄関節の安定性を評価します(下図Aは術前、下図Bは術後の蹄関節不安定性)。通常は、切腱術の2~3日後から疼痛症状の改善が見られます。また、切断された深屈腱の遠位端が線維化および癒着することで、術後の6~8週間で蹄関節の安定性が回復すると言われており、その後は、蹄踵伸長が無くても、蹄繋軸が真っ直ぐ保たれるようになります。

切腱術の予後は良好なことが多く、合併症としては、創部感染(繋部での施術のほうがリスクが高い)および慢性跛行が挙げられます。持続的な疼痛の原因としては、浅屈腱への代償的な負荷増加や、蹄関節の変性関節疾患、回帰性の蹄膿瘍などがあり、疼痛が慢性化した場合には、突球症状(球節の過屈曲)を続発するケースもあります。蹄葉炎の治療は、切腱術の実施で終わる訳ではなく、その後に、蹄骨角度を矯正する蹄アラインメント再編(デローテーション処置)を要することが多いため、跛行や蹄繋軸異常を慎重に監視すると同時に、定期的なX線検査を行なって(必要であれば静脈造影検査も)、蹄内の構造物の異常を見逃さないように努めます。

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Photo courtesy of Equine Surgery: Jorg A Auer, John A Stick, Jan M Kümmerle, Timo Prange; 5th eds, 2019, Saunders (ISBN: 978-0-323-48420-6)

参考文献:
Waguespack RW, Caldwell F. How to Perform a Modified Standing Deep Digital Flexor Tenotomy at the Level of the Proximal Interphalangeal Joint. 2009 Proc AAEP, Lameness II, 2009(55), 230-237.

参考動画:Dr. Redden - Deep Flexor Tenotomy (1987)





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このエントリーのタグ: 蹄葉炎 手術 蹄病

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