馬の文献:ロドコッカスエクイ肺炎(Reuss et al. 2009)
文献 - 2022年11月09日 (水)

「子馬のロドコッカスエクイ菌感染による肺以外の病変:1987~2007年の150症例」
Reuss SM, Chaffin MK, Cohen ND. Extrapulmonary disorders associated with Rhodococcus equi infection in foals: 150 cases (1987-2007). J Am Vet Med Assoc. 2009; 235(7): 855-863.
この研究では、子馬のロドコッカスエクイ感染(Rhodococcus equi infection)における肺以外の疾患(Extrapulmonary disorders)の病態把握のため、1987~2007年にかけて、ロドコッカスエクイ菌への感染と診断された150頭の子馬の、医療記録(Medical records)および剖検結果(Necropsy results)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、150頭のロドコッカスエクイ感染の患馬のうち、肺以外の疾患を併発していたのは74%(111/150頭)に上り、その疾患のタイプは、39種類にも及んでいました。このうち、最も多かったのは下痢症(Diarrhea)の33%で、次いで、免疫介在性多発滑膜炎(Immune-mediated polysynovitis)が25%、潰瘍性全腸盲腸結腸炎(Ulcerative enterotyphlocolitis)が21%、腹腔内膿瘍(Intra-abdominal abscesses)が17%、腹腔リンパ節炎(Abdominal lymphadenitis)が17%、等となっていました。そして、肺以外の疾患を併発していた患馬の生存率(Survival rate)は43%(48/111頭)に留まったのに対して、そうでなかった患馬の生存率は82%(32/39頭)に達していました。このため、ロドコッカスエクイ感染の罹患子馬では、原発病態である肺以外にも疾患が存在する場合がかなり多いことを考慮して、これらの併発疾患を慎重に診断することで、適切な予後判定(Prognostication)を行うことが重要であると考察されています。
この研究では、150頭のロドコッカスエクイ感染の患馬に見られた肺以外の疾患のうち、ブドウ膜炎(Uveitis)では生存率が19%(3/16頭)、感染性滑膜炎(Septic synovitis)では生存率が13%(2/15頭)、ロドコッカスエクイ菌血症(Rhodococcus equi bacteremia)では生存率が9%(1/11頭)、腹腔リンパ節炎では生存率が8%(2/25頭)、腹腔内膿瘍では生存率が4%(1/25頭)、などのように、有意に予後が悪化していました。また、潰瘍性全腸盲腸結腸炎、膿性肉芽腫性肝炎(Pyogranulomatous hepatitis)、膿性肉芽腫性腎炎(Pyogranulomatous nephritis)、心外膜炎(Pericarditis)、肉芽腫性髄膜炎(Granulomatous meningitis)等では、全頭が斃死または安楽死(Euthanasia)になっていました(生存率:0%)。
この研究では、150頭のロドコッカスエクイ感染の患馬のうち、肺以外の疾患を併発していた子馬では、そうでない子馬に比べて、入院前の臨床症状の経過期間(Duration of clinical signs prior to admission)が有意に長く、白血球増加症(Leukocytosis)および好中球増加症(Neutrophilia)を起こしている割合が有意に高かった事が示されました。このため、肺以外の疾患を併発していた症例では、そのような併発疾患が直接的な原因となって、死亡率が上がったというよりも、より重篤かつ長期にわたる病態経過(Severe/Prolonged disease progression)を示した結果として、肺以外の疾患を続発するに至ったと推測されています。つまり、初診時に全身の精密検査を行って肺以外の疾患を発見&治療することが、必ずしも予後改善につながるとは限らない、という考察がなされています。
この研究では、150頭のロドコッカスエクイ感染の患馬のうち、肺以外の疾患を併発していた子馬では、そうでない子馬に比べて、心拍数(Heart rate)や血中尿素窒素濃度(Concentration of blood urea nitrogen)が有意に高かった事が示されました。このため、これらの検査所見から、肺以外の疾患を推定診断(Presumptive diagnosis)できる可能性があると考えられました。しかし、そのような肺以外の疾患の中には、特異的な症状(Specific signs)を示さないものも見られ、潰瘍性全腸盲腸結腸炎、膿性肉芽腫性肝炎、膿性肉芽腫性腎炎、肉芽腫性髄膜炎などでは、死前診断(Antemortem diagnosis)が下された症例は一頭も無かった事が報告されています。
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