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馬の腸間膜脈管のエコー検査

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馬の獣医療におけるエコー検査は、非侵襲性で、迅速かつ簡易に実施できる画像診断法として、多様な疾患での病態精査のために有用であると言えます。

ここでは、馬の消化器疾患の診断法として、腸間膜の脈管組織のエコー検査を評価した知見を紹介します。この研究では、英国とスペインの馬病院において、2013~2017年にかけて、大腸または小腸の疾患を呈した疝痛馬54頭における、エコー検査所見の回顧的調査が行なわれました。

参考文献:
Manso-Diaz G, Bolt DM, Lopez-Sanroman J. Ultrasonographic visualisation of the mesenteric vasculature in horses with large colon colic. Vet Rec. 2020 May 2;186(15):491.

解剖学的に見ると、馬の結腸に血液供給する2本の動脈(回盲動脈結腸枝と右結腸動脈)は、結腸の腸間膜面(正中側)を走行しているため、健常な状態ではエコー画像には映りません。しかし、変位や捻転によって結腸が裏返って、腸間膜面が腹壁と向き合うと、腸間膜の脈管組織がエコー検査で描出されるようになります[1,2]。まお、上図内の記号は以下を示しています。1:頭側腸間膜動脈、2:外側盲腸動脈、3:内側盲腸動脈、4:回盲動脈結腸枝、5:右結腸動脈、RDC:右背側結腸、RVC:右腹側結腸、LDC:左背側結腸、LVC:左腹側結腸、C:盲腸。

この研究では、結腸捻転(180°)を呈した馬8頭のうち、エコー検査で腸間膜脈管が描出されたのは、右腹壁では25%(2/8頭)、左腹壁では75%(6/8頭)となっていました。このうち一頭は、左右両方の腹壁で、腸間膜脈管が描出されました。また、540°の結腸捻転を呈した症例馬(1頭)では、右腹壁のエコー検査でのみ腸間膜脈管が描出されました。しかし、結腸捻転のエコー画像では、腸間膜脈管の描出以外にも、結腸壁の浮腫性肥厚や、背背側結腸の入れ替わり等の所見も有用であると推測されます。

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この研究では、結腸の右背方変位を呈した馬15頭のうち、エコー検査で腸間膜脈管が描出されたのは、右腹壁では73%(11/15頭)、左腹壁では33%(5/15頭)となっていました。このため、右腹壁のエコー検査によって腸間膜脈管が確認できれば、結腸右背方変位の診断の一助になると推測されます。同様の知見は、過去の文献でも提唱されています[2]。なお、上写真は、結腸右背方変位の馬での、右側第11肋間のエコー画像で、結腸壁(矢印)に沿うように腸間膜の脈管組織(矢頭)が描出されています(*は肝臓)。

この研究では、結腸の左背方変位を呈した馬6頭のうち、エコー検査で腸間膜脈管が描出されたのは、右腹壁では0%(0/6頭)、左腹壁では100%(6/6頭)となっていました。このため、左腹壁の背側部におけるエコー検査でのみ腸間膜脈管が描出された場合には、結腸の左背方変位である確率が有意に高いことが示されています。なお、下写真は、結腸左背方変位の馬での、左背側腹壁のエコー画像で(写真の左側が馬の背側)、脾臓(*)の背側に結腸の腸間膜脈管が描出されています。

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この研究では、結腸食滞を呈した馬2頭のうち、エコー検査で腸間膜脈管が描出されたのは、右腹壁では100%(2/2頭)、左腹壁では0%(0/2頭)となっていました。しかし、サンプル数が少ないため、右腹壁でのみ腸間膜脈管が描出される所見が、結腸食滞に特異的なものであるかは結論付けられていません。

この研究では、結腸疾患を呈した34頭の馬のうち、右腹壁および左腹壁のエコー検査で腸間膜脈管が描出された症例は、それぞれ47%(16/34頭)および50%(17/34頭)に及んでいました。一方、小腸疾患を呈した20頭のうち、エコー検査で腸間膜脈管が描出された症例は、僅か5%(1/20頭)に留まっていました(右腹壁、空腸捻転)。このため、疝痛馬のエコー検査で腸間膜脈管が視認された場合には、結腸疾患を発症している確率が有意に高いことが分かりました。

一般的に、健常な位置にある結腸では、腸内のガスに邪魔されて、その裏側にある腸間膜脈管がエコーに映ることはありませんが、腸内容物の液体量が多いケースでは、超音波が腸管を貫通して、腸間膜面にある脈管が描出されることがあります。しかし、この場合には、脈管が腹壁沿いではなく、深部組織に位置していることで鑑別できると言われています。

Photo courtesy of Vet Rec. 2020 May 2;186(15):491.

関連記事:
・ポニーの結腸でのエコー所見
・馬の肝臓内腫瘤での鑑別診断
・馬の浸潤性腸疾患での鑑別診断
・小腸の閉塞性疾患における鑑別診断

参考文献:
[1] Grenager NS, Durham MG. Ultrasonographic evidence of colonic mesenteric vessels as an indicator of right dorsal displacement of the large colon in 13 horses. Equine Vet J Suppl. 2011 Aug;(39):153-5.
[2] Ness SL, Bain FT, Zantingh AJ, Gaughan EM, Story MR, Nydam DV, Divers TJ. Ultrasonographic visualization of colonic mesenteric vasculature as an indicator of large colon right dorsal displacement or 180° volvulus (or both) in horses. Can Vet J. 2012 Apr;53(4):378-82.
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このエントリーのタグ: 検査 疝痛

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