馬の蹄踵部のエコー検査
話題 - 2022年11月10日 (木)

馬の蹄踵痛を起こす病態の多くは、X線画像では発見できない事から、近年、欧米諸国では、高磁場MRI検査によって診断されています。しかし、日本では、蹄病の画像診断に応用できる高磁場MRI機器は殆どないのが現状です。
ここでは、蹄踵痛の病変における、高磁場MRI検査とエコー検査を比較した知見を紹介します。この研究では、ベルギーのリエージュ大学の馬病院において、2016~2019年にかけて、蹄踵痛の診断と治療のために来院した31頭の馬に対して、MRI検査とエコー検査による蹄踵部病変の診断が行なわれました。
参考文献:
Evrard L, Joostens Z, Vandersmissen M, Audigié F, Busoni V. Comparison Between Ultrasonographic and Standing Magnetic Resonance Imaging Findings in the Podotrochlear Apparatus of Horses With Foot Pain. Front Vet Sci. 2021 Jul 5;8:675180.
結果としては、蹄踵部の深屈腱に発症した病変のうち、エコー検査で発見できたのは94%(32/34箇所)に達したのに対して、MRI検査で発見できたのは79%(27/34箇所)に留まりました。また、舟状骨の掌側部に発症した病変のうち、エコー検査で発見できたのは68%(23/34箇所)に過ぎませんでしたが、MRI検査で発見できたのは88%(30/34箇所)となっていました。そして、蹄球部の繋ぎから描出した場合、エコー輝度の変化と、MRIのシグナル変化とは相関していませんでした。
上写真は、蹄踵部の深屈腱に発症した病変における、MRI検査(上部2つの画像)とエコー検査(下部の画像)を比較したもので、深屈腱の横断像になります。黄色矢印は、縦軸方向への深屈腱の裂傷を示しており、滑液増量による舟嚢膨満(赤色*)も認められます。

この研究では、蹄踵部のエコー検査の手法として、(1)蹄球部の繋ぎから描出する方法、(2)蹄底の蹄叉基底部から描出する方法、(3)蹄底の蹄叉尖部から描出する方法、が実施されました(上図)。このうち、1の方法は、繋ぎの剃毛のみで実施可能で、上述の深屈腱の病変を発見できるケースもあるため、蹄踵痛を発症した馬の画像診断に有用であると考えられます。一方、2と3の方法では、蹄叉を平らに削切して、水で蹄叉組織をふやかす必要があるため、臨床的に実施するのは煩雑だと言えます。
過去の知見では、蹄踵痛を起こした馬におけるMRI検査では、深屈腱や舟嚢、舟状骨の掌側面以外にも、蹄関節の側副靭帯、舟状骨の提携靭帯(Navicular suspensory ligament)、不対靭帯(Impar ligament)などにも病変が起こることが報告されています。これらの構造物は、エコー検査における上記の1~3の方法では描出できないため、やはり、エコー検査よりもMRI検査のほうが、蹄踵痛の診断能は高いと考えられました。また、MRI検査では、舟状骨や蹄骨の内部に生じる病態も診断できるという利点があります。
Photo courtesy of Front Vet Sci. 2021 Jul 5;8:675180.
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