馬の仙腸関節のエコー検査
話題 - 2022年11月10日 (木)

馬の仙腸関節部の疼痛は、後躯跛行の原因になることが知られており、原因疾患としては、仙腸関節の不安定症、仙腸靭帯炎、背最長筋腱炎、骨盤の疲労骨折などが含まれます。
馬の仙腸関節は、X線検査での評価が難しいため(全身麻酔下での背臥位であれば撮影可能)、診断麻酔による疼痛限局を除けば、エコー検査が数少ない診断方法になります(海外ではシンチグラフィー検査が有用)。ここでは、馬の仙腸関節部の解剖学的構造とエコー検査所見についての知見を紹介します。
参考文献:
Kersten AA, Edinger J. Ultrasonographic examination of the equine sacroiliac region. Equine Vet J. 2004 Nov;36(7):602-8.
馬には3つの仙腸靭帯があり、短靭帯と長靭帯に分かれています。このうち、仙腸短靭帯は、尾椎棘突起と仙骨突起のあいだを走行しており、仙骨突起上部では背最長筋に覆われています。また、骨間仙腸靭帯は、腸骨翼と仙骨翼のあいだに位置して、仙骨を吊り上げていますが、深部にあるためエコー画像には描出されません。そして、腹側仙腸靭帯は、仙骨と腸骨を連結しながら仙腸関節の底部を成して、関節腔の一部を形成しています。
仙腸関節は、滑膜性の可動連結関節で、周囲結合組織により限定的な動きしか出来ません。馬の仙腸関節面は、水平面から30°の角度で八の字形をしていて、その内側部には、頭側臀部動静脈および第六腰椎と第一尾椎の神経根が走行しています。また、腸骨翼の腹側には、腸腰椎動静脈が頭側臀部脈管の一つとして走行しています。なお、二歳以下の馬では、仙骨結節の骨化が完了していない個体もあります。

上図の左下は、骨盤領域の側方像で、1が背側仙腸靭帯の短靭帯、2が背側仙腸靭帯の長靭帯、3が仙結節靭帯、4が仙骨突起、5が背最長筋腱、を示しています。また、上図の上は、仙骨突起の真上から、左右方向にプローブを当てた状態でのエコー像で、1が背側仙腸靭帯、2が背最長筋腱、3が中殿筋、4が臀部筋膜、5が仙骨突起、を示しています。そして、上図の右下は、仙骨突起の真上から、頭尾側方向にプローブを当てた状態でのエコー像で(画像左側が馬の頭側)、1が背側仙腸靭帯、2が背最長筋腱、3が中殿筋、4が臀部筋膜、5が仙骨突起、を示しています。
下図の上は、骨盤を腹側から見た図で、黒矢印は腹側仙腸靭帯を示しており、黒棒領域が経直腸でエコー検査のプローブを当てる部位を示しています。また、上図の左下は、仙腸関節の腹側部からプローブを当てた状態のエコー像で(画像左側が馬の頭側)、白矢印が、関節腔縁での骨新生像を示しています。そして、上図の右下も同位置のエコー像で、白矢印が、仙腸関節炎(変性関節疾患)を示唆する骨棘形成像を示しています。

仙腸関節部の背側からのエコー像では、背側仙腸靭帯や背最長筋腱が描出され、その肥厚や高/低エコー輝度の病巣を確認することが出来ます。また、仙骨結節から皮膚までの距離は平均18.5mmで、腱靭帯組織の肥厚や皮下識の浮腫形成によって数値増加が見られます。通常、背側仙腸靭帯の厚みは平均2.5mmで、背最長筋腱の厚みは平均3.5mmであることが報告されています。ただ、仙腸関節の亜脱臼では、仙骨結節の背側端の高さが左右非対称になるものの、仙骨結節と皮膚との位置関係は変化しないため、この距離の測定値は、直接的な亜脱臼の診断指標にはなりません。
経直腸での仙腸関節部の腹側からのエコー像では、関節の尾内側領域のみ描出可能であり(直腸壁のためプローブの側方移動が制限されるため)、斜め方向に描出することで腸腰動脈が視認できます。また、坐骨神経と関節縁との位置関係を描出することも可能で、関節の骨新生が神経に接触することで跛行の原因となるケースもあります。なお、仙腸関節は、明瞭な滑液貯留を伴う関節腔を持たないため、背側関節部から注射した局所麻酔薬で腹側関節部を無痛化できるかは不明瞭であると言われており、経直腸エコー検査が唯一の診断手法となる場合もあります。
Photo courtesy of Equine Vet J. 2004 Nov;36(7):602-8.
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参考文献:
Tomlinson JE, Sage AM, Turner TA. Ultrasonographic abnormalities detected in the sacroiliac area in twenty cases of upper hindlimb lameness. Equine Vet J. 2003 Jan;35(1):48-54.
Engeli E, Yeager AE, Erb HN, Haussler KK. Ultrasonographic technique and normal anatomic features of the sacroiliac region in horses. Vet Radiol Ultrasound. 2006 Jul-Aug;47(4):391-403.
Goff LM, Jeffcott LB, Jasiewicz J, McGowan CM. Structural and biomechanical aspects of equine sacroiliac joint function and their relationship to clinical disease. Vet J. 2008 Jun;176(3):281-93.