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直腸壁を介した馬の大結腸の減圧術

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直腸壁を介した馬の大結腸の減圧術が試みられています。

一般的に、馬の盲腸鼓脹症に対しては、経皮的な減圧術の応用が可能で、また、大結腸左方変位による腎脾間捕捉においても、経皮的に大結腸を穿刺およびガス吸引する治療法が報告されています。そして、今回の研究では、大結腸の鼓脹症に対する潜在的治療法として、直腸壁を介した減圧術が試みられています。この研究では、直腸内で安全に穿刺針を操作するため、針の出し入れが可能な特別なシリンダー(下写真)が開発されています。

この研究の術式では、枠場内で鎮静および保定された馬に対して、直腸検査によって膨満している腸管が触知されました。次に、鋭い針先をシリンダー内に格納した状態で直腸内に挿入して、狙いを定めながら内筒を押し出すことで、直腸壁を介して処置箇所の腸管へと針穿刺されました。そして、穿刺針につなげた管に、機械的吸引装置からのチューブを連結させて、腸管内のガスを吸い取ることで、大結腸の減圧術が施されました。このシリンダー内には、スプリングが入っていて、馬が動いたり、ガスを抜くにつれて腸管がしぼんでいく過程で、指の操作ひとつで穿刺針を素早く引き戻すことが出来る構造になっていました。

結果としては、大結腸の鼓脹症が診断された25頭の患馬に対して、33回の減圧術が実施され、2~3回にわたって減圧された馬もありましたが、短期的および長期的な合併症が見られた馬はありませんでした。このうち、八割の馬(20/25頭)は生存を果たし、残りの五頭も減圧術とは無関係の理由で安楽死となっていました。このため、大結腸鼓脹症の罹患馬に対しては、直腸壁を介した大結腸の穿刺およびガス吸引によって、十分な減圧術が実施され、良好な治療成績を示す馬の割合が、比較的に高いことが示唆されました。上写真では、剖検された馬を用いて、腹腔鏡検査で観察しながら大結腸穿刺を行った際の画像が示されています。

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この研究では、直腸壁を介した大結腸の穿刺術および減圧術の利点として、(1)経皮的な穿刺術では届かない箇所の腸管を処置できる、(2)腸管を触診しながら針穿刺できるので、正確な部位およびタイミングでの穿刺ができる、(3)針を素早く引き戻せるため、針先から腹腔内へ腸内容物が漏れる危険性が少ない(腹膜炎を起こしにくい)、などが挙げられています。一方、直腸壁を介した減圧術では、経皮的な減圧術のように、穿刺箇所を剃毛&滅菌することが出来ないため、穿刺された腸管壁における膿瘍形成を生じやすい可能性は否定できません。また、今回での研究では、直腸壁を介した超音波検査の併用は、ガス貯留箇所を確かめたり、大きな血管を避けるためには、あまり有用ではないという知見が示され、触診によって特定されたガス貯留箇所に穿刺する術式が推奨されています。

ヒトの医学分野では、直腸壁を介した前立腺の生検が一般的に実施されており、十回以上も穿刺される場合が多いにも関わらず、感染性の合併症が見られるのは2%の症例に留まっています。そして、今回の研究でも、剖検された三頭のうち、膿瘍形成、腹膜炎、腹腔内出血などの所見は認められておらず、18ゲージというかなり細い針を使って腸管穿刺したことが、合併症の予防に奏功したと推測されています(上述の、人間の前立腺生検で使される針のサイズは、今回の研究のものよりも太い)。

Photo courtesy of Equine Vet Educ. 2012.DOI: 10.1111/j.2042-3292.2012.00445.x.

参考文献:
Scotti GB, Lazzaretti SS, Zani DD, Magri M. Transrectal decompression as a new approach for treatment of large intestinal tympany in horses with colic: Preliminary results. Equine Vet Educ. Aug 20th,2012.DOI: 10.1111/j.2042-3292.2012.00445.x.

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