馬の外側指伸筋腱切除術
診療 - 2022年11月12日 (土)

馬の外側指伸筋腱の切除術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。
馬の後肢に発症する機械性跛行として鶏跛(Stringhalt)があり、飛節と膝関節の不随意性過剰屈曲を示す疾患で、球節を高く挙上しながら歩く歩様が見られます(通常は、常歩においてのみ)。そして、鶏跛に対する外科的治療では、外側指伸筋腱の切除術が試みられることがありますが、鶏跛歩様の改善度合いには個体差が見られます。なお、オーストラリア鶏跛(植物由来毒物による神経炎)は、この手術の適応にはなりません。
この手術では、外側指伸筋腱を、下腿部の伸筋体部との起始部から、近位管部の長指伸筋腱との連絡部まで切除することを目的とします。通常は、倒馬のリスクを避けるため、立位で実施されることが多いものの、馬の気性によっては、全身麻酔下での施術が選択されることもあります。施術に際しては、まず鎮静剤を投与して、遠位下腿部と近位管部の外側部を剃毛した後、近位の伸筋体部、および、遠位の伸筋腱の箇所の皮膚を局所麻酔します。
そして、術部の消毒とドレーピングを施してから、近位管部を走行する外側指伸筋腱の真上を皮膚切開して(長指伸筋腱との連絡部のすぐ上方の箇所)、皮下識と深部組織との結合を剥離した後、ケリー鉗子を用いて外側指伸筋腱を切開創から持ち上げます。次に、下腿部外側で脛骨外顆から6cm近位の箇所を皮膚切開して、皮下識から筋膜まで切り進めることで、伸筋体部を露出させます。そして、遠位と同様に、鉗子を用いて筋肉を切開創から持ち上げます(下写真A)

この時点で、近位側の伸筋体部を引張して、遠位側の腱との連続性があることを再確認することが重要で、筋肉を十分に引張できない場合には、伸筋体部が分割していたり、深部組織との連結が残っていないかを確認します。その後は、遠位側の腱を先に切断してから、近位側の筋肉を強く引張することで、腱の断端を近位切開創から引き抜きます(飛節にある腱鞘内を断端が通過する)(下写真B)。この引張作業には、非常に強い力が必要なケースもあるため、円柱状の金属棒を滅菌しておき、それを伸筋体部の裏側に通して引くことも有用です(鉗子を使って引張するよりも、筋断裂の危険が少ない)。
外側指伸筋腱の全長が近位切開創から引き抜けた後は、切開創の近位側で伸筋体部を切断することで、外側指伸筋の筋肉部分2cmを一緒に切除するようにします(遠位に向けて斜めに切断しておく)。その後は、必要な止血処置を施した後、近位側では、筋膜と皮下識を吸収糸で連続縫合してから、皮膚を非吸収糸で単純結節縫合します。遠位側では、皮膚の縫合のみとします。術後は、二週間は完休とし、この期間は圧迫バンテージを装着して漿液腫を予防します。その後の一週間は曳き馬を行ない、術後の3~4週間目には騎乗運動に復帰できると言われています。
外側指伸筋腱切除術での合併症としては、漿液腫、癒着、創部感染などが挙げられます。馬の外側指伸筋腱の切除術による治療効果は不確実であり、鶏跛の症状が完全消失する場合もあれば、症状改善が限定的に留まるケースも見られます。また、治療効果の発現が、切除術の直後に見られることもあれば、数ヶ月を要する症例もあると報告されています。このため、手術による治療効果の不確実さや遅延性について、術前に馬主や管理者への説明をしておくことが大切です。
Photo courtesy of Equine Surgery: Jorg A Auer, John A Stick, Jan M Kümmerle, Timo Prange; 5th eds, 2019, Saunders (ISBN: 978-0-323-48420-6)
参考動画:Lateral Digital Extensor Tenotomy (Thomaz Coelho)