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英国の障害競走馬での購入前検査

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一般的に、日本のサラブレッドのセリでは、レポジトリーと呼ばれる事前検査によって、将来的な競走能力に悪影響を与える異常所見が無いかがチェックされています。一方、英国の障害レースに出走するサラブレッド競走馬では、三歳または四歳の時点で購入前検査が実施されており、その検査結果や、セリの結果をまとめた知見も報告されています。この研究では、1998~2006年にかけて、英国の三箇所の生産地において、購入前検査が実施された13,603頭のサラブレッド(三歳または四歳)における検査記録の解析が行なわれました。

参考文献:
Barrett E, Arkins S. Abnormalities detected at pre-purchase examination of National Hunt racehorses presented at sale. Equine Vet J. 2020 Mar;52(2):281-289.

結果としては、購入前検査で何らかの異常所見が認められた馬は73.6%に及んでおり、競走能力に影響を与えると思われる異常所見は12.0%の馬に認められました。また、そのような異常所見が見られなかった馬における売却率(77.6%)と比較して、異常所見が見られた馬の売却率(38.1%)は有意に低いことが分かりました。そして、異常所見の有無や個数は、売却価格と有意な負の相関を示していました

この研究では、障害競走サラブレッドの購入前検査で、最も多く発見されたのは運動器疾患であり、飛節後腫(飛節底部靭帯炎)が見られた馬が19.4%、管骨瘤(中手骨または中足骨の外骨腫)が見られた馬が17.1%に及んでいました。また、発見された呼吸器疾患としては、異常な呼吸器雑音を呈した馬が9.9%で、反回神経麻痺を呈した馬が5.3%となっていました。さらに、幾つかの種類の疾患では、有病率と年齢とのあいだに有意な正の相関が認められました。

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このため、三歳および四歳のサラブレッドにおける購入前検査では、靭帯炎や外骨腫などの微細損傷の蓄積によって発症する疾患が既に確認されており、基礎調教の段階においても、骨組織や腱靭帯組織の早期診断および発症予防を図る必要があることを再確認するデータが示されました。また、上記の有病率は、購入前検査を受けたあとにセリに参加しなかった馬のデータは含まれていないため、実際には、より進行した運動器疾患を呈した症例もいたと推測されています。

この研究では、反回神経麻痺などの競走能力を制限する呼吸疾患も、約20頭に一頭の割合で発見されており、障害レースという強運動使役に供さない個体が、購入前検査によって探知および選別されているという実態が示されました。一方、今回の調査対象となった購入前検査においては、呼吸器雑音が確認された馬にのみ内視鏡検査が実施されていた、という限界点が指摘されています。また、呼吸器雑音が聴取された馬のうち、内視鏡検査で原因疾患が確認された馬は54%に留まっていました。

この研究では、購入前検査で発見された疾患のうち、セリへの参加を断念していた馬の割合は、此処の疾患によって多様であることが報告されており、呼吸器雑音では26.9%、反回神経麻痺では32.2%と、かなり高くなっていました。一方、セリ参加を断念したのは、飛節後腫では5.8%、管骨瘤では5.7%となっており、呼吸器疾患よりも運動器疾患のほうが、罹患馬でもセリに参加する割合が高いことが分かりました。また、セリ参加を断念した馬の割合は、神経器異常(25.4%)や心雑音(26.3%)でも、比較的に高いことが分かりました。

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この研究では、購入前検査で発見された疾患のうち、売却価格へのマイナス影響でも多様性があることが示されており、特に、異常な呼吸器雑音ではマイナス8,969€で、心雑音ではマイナス7,342€に及んでおり、呼吸・循環器系の疾患は、売却価格を大きく下げるという傾向が認められました。一方、飛節後腫ではマイナス2,665€で、管骨瘤はマイナス964€となっており、運動器疾患が売却価格を下げる度合いのほうが軽度になっていました。また、年齢と性別も売却価格に影響しており、四歳馬では三歳馬と比べてマイナス3,042€m、メス馬はオス馬よりもマイナス5,220€となっていました。

この研究では、1996~2006年の調査期間のうち、年が進むにつれて、購入前検査で発見される異常所見が少なくなるという傾向が認められ、特に、呼吸器系の疾患や、競走能力に影響を与えると思われる異常所見は、この十年間で半数以下まで減っていました。この傾向は、若齢馬の疾患に対する予防や治療の技術が発達したためと推測されていますが、一方で、診断手技の発展により、多様な疾患が早期診断されて、競走馬以外の用途に転用される馬が増えた可能性もあると考察されています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2020 Mar;52(2):281-289. (doi: 10.1111/evj.13164.)

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このエントリーのタグ: 検査 競馬

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