母馬の肥満と子馬の出生体重の関係
馬の飼養管理 - 2022年11月14日 (月)

近年、サラブレッドの繁殖分野では、子馬の出生体重が増加傾向にあり、生後の子馬への影響も懸念されています。
ここでは、母馬の肥満や内分泌機能と、子馬の出生体重との関連性を調査した知見を紹介します。この研究では、英国のロスデール馬病院の研究者たちが、2013年の繁殖期に一つの繁殖牧場を対象として、66頭のサラブレッド繁殖牝馬における体重、体格(BCS)、子馬の出生体重、および、内分泌機能の検査を実施しています。
参考文献:
Smith S, Marr CM, Dunnett C, Menzies-Gow NJ. The effect of mare obesity and endocrine function on foal birthweight in Thoroughbreds. Equine Vet J. 2017 Jul;49(4):461-466.
結果としては、サラブレッドの繁殖牝馬では、母馬の体格の大きさと子馬の出生体重とのあいだに、有意な正の相関が認められました。しかし、相関の度合いはそれほど強く無かった(相関係数[r]=0.13)ことから、母馬の肥満が、必ずしも新生子馬の過体重に繋がる訳ではないと考えられるものの、やはり繁殖牝馬の健康管理を徹底して、肥満予防や適性BCSの維持に努めることが推奨されました。なお、この研究の調査対象となった牧場では、牝馬の肥満率は55%であり、一般的な英国の繁殖牧場における牝馬の肥満率と同程度であったと報告されています。

過去の文献では、子馬の出生体重の増加による、様々な悪影響が報告されています。馬の繁殖学の研究では、新生子馬の体重増加によって、生後のインスリン機能の低下に繋がるという知見や[1,2]、子馬の過体重が、生後の心血管系機能を減退させるという報告があります[3]。また、子馬の出生体重が増加することで、生後に細菌性関節炎、肢軸異常、骨軟骨症などの発症率が上昇するという知見も示されています[4,5]。そして、ヒト医療分野の研究では、出生時の過体重が、成長時期の筋肉量減少、関節炎の増加、代謝機能異常(Ⅱ型糖尿病)の発症などと相関するという知見も示されています[6,7]。
この研究では、妊娠期間の最初の四ヶ月間における血中インスリン濃度は、六ヶ月以降と比較して有意に高かったものの、BCSとは相関していませんでした。一方、妊娠の六~八ヶ月目における血中レプチン濃度は、八ヶ月以降と比較して有意に高く、母馬の血中レプチン濃度と、子馬の出生体重とのあいだに、有意な負の相関(r=-0.64)が確認されました。一方、過去の文献では、牝馬のBCS増加とレプチン濃度上昇は相関すると言われており[8]、このような相反するデータが示された要因は確定されていませんでした。今後の研究では、母馬のレプチン測定によって、新生子馬の過体重を予測できるかの検討を要すると考察されています。
この研究では、妊娠期間の八~十ヶ月目で、血中の中性脂肪濃度が増加していた事から、急激な胎児の成長に起因するものと考えられており、妊娠後期に肥満体型の牝馬が減ることも裏付けの一つとされています。このため、繁殖牝馬の妊娠後期と泌乳初期においては、エネルギー要求量の増加に合致した飼養管理を行なうことの重要性が再確認されました。

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参考文献:
[1] Ousey JC, Fowden AL, Wilsher S, Allen WR. The effects of maternal health and body condition on the endocrine responses of neonatal foals. Equine Vet J. 2008 Nov;40(7):673-9.
[2] George LA, Staniar WB, Treiber KH, Harris PA, Geor RJ. Insulin sensitivity and glucose dynamics during pre-weaning foal development and in response to maternal diet composition. Domest Anim Endocrinol. 2009 Jul;37(1):23-9.
[3] Giussani DA, Forhead AJ, Gardner DS, Fletcher AJ, Allen WR, Fowden AL. Postnatal cardiovascular function after manipulation of fetal growth by embryo transfer in the horse. J Physiol. 2003 Feb 15;547(Pt 1):67-76.
[4] Whittaker S, Sullivan S, Auen S, Parkin TD, Marr CM. The impact of birthweight on mare health and reproductive efficiency, and foal health and subsequent racing performance. Equine Vet J Suppl. 2012 Feb;(41):26-9.
[5] Dobbs, T.N. (2013) Glucose and insulin dynamics of mares during pregnancy and lactation and of growing foals. PhD Thesis, University of Queensland, espace.library.uq.edu.au.
[6] Kensara OA, Wootton SA, Phillips DI, Patel M, Jackson AA, Elia M; Hertfordshire Study Group. Fetal programming of body composition: relation between birth weight and body composition measured with dual-energy X-ray absorptiometry and anthropometric methods in older Englishmen. Am J Clin Nutr. 2005 Nov;82(5):980-7.
[7] Laitinen J, Power C, Jarvelin MR. Family social class, maternal body mass index, childhood body mass index, and age at menarche as predictors of adult obesity. Am J Clin Nutr. 2001 Sep;74(3):287-94.
[8] Frank N, Elliott SB, Brandt LE, Keisler DH. Physical characteristics, blood hormone concentrations, and plasma lipid concentrations in obese horses with insulin resistance. J Am Vet Med Assoc. 2006 May 1;228(9):1383-90.