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唾液検査による馬の胃潰瘍の診断

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馬の胃潰瘍は、有病率の高い消化器疾患であることが知られていますが、特異的な臨床症状に乏しいことから、確定診断のためには内視鏡検査を要します。しかし、胃の内視鏡では、長時間の絶食を要するなど、煩雑さと馬体の負担が大きいという問題があります。

一般的には、馬の胃潰瘍には、ウマ扁平胃疾患(ESGD: Equine squamous gastric disease)とウマ腺胃疾患(EGGD: Equine glandular gastric disease)の二種類があり、特に後者は、未解明な要素も多く、知見を深めていく必要があります。ここでは、内視鏡を使用せずに、唾液検査でEGGDを診断するという知見を紹介します。この研究では、26頭のスポーツ乗用馬(総合馬術またはエンデュランス競技)および62頭の一般用途の乗用馬を用いて、ACTH刺激後の唾液中のコルチゾル濃度の測定と、内視鏡検査によるEGGD/ESGDの所見を比較して、ROC曲線下面積(AUC)を算出することで診断能が評価されました。

参考文献:
Sauer FJ, Bruckmaier RM, Ramseyer A, Vidondo B, Scheidegger MD, Gerber V. Diagnostic accuracy of post-ACTH challenge salivary cortisol concentrations for identifying horses with equine glandular gastric disease. J Anim Sci. 2018 Jun 4;96(6):2154-2161.

結果としては、ACTH刺激から一時間後の唾液中コルチゾル濃度を指標(カットオフ値:4.92ng/mL)とした場合、スポーツ乗用馬における中程度~重度のEGGD病変を、100%の感度と75%の特異度で鑑別診断できることが示されました(AUC=0.91)。一方、一般用途の馬群における中程度~重度のEGGD病変においては(カットオフ値:4.04ng/mL)、75%の感度と52%の特異度に留まっていました(AUC=0.68)。なお、ACTH刺激から90~150分後の唾液検査では、AUCは低値となっており、一時間後の唾液検体が最も高い診断能を示していました。

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過去の文献では、馬の視床下部-下垂体-副腎軸(Hypothalamic pituitary adrenal axis)に対してACTH刺激を施すことで、副腎皮質からのコルチゾル分泌が起こり、唾液中の濃度ピークは、ACTH刺激の二時間後となっていました。今回の研究では、EGGD病変を持つ馬では、コルチゾル濃度の分泌が健常馬よりも急激に起こるため、ACTH刺激の一時間後の時点で(濃度が上昇中のタイミング)、両群を比較することで、EGGDの鑑別診断に繋がることが示唆されました。なお、唾液中コルチゾルの濃度時間曲線下面積も解析されましたが、コルチゾル濃度そのものを上回るAUC値は示されませんでした。

この研究では、唾液検査によるEGGD診断は、スポーツ乗用馬群では高い診断能を示したものの、一般用途群では中程度に留まっていました。この傾向は、一般用途群の馬の多様性を考えると(品種や使役用途など)、予測された結果であると述べられており、個体間の多様さが広がり、正常範囲の幅が拡大することで、EGGD罹患馬の異常値を、異常として認識するのが難しくなったためと推測されます。このため、今後の研究では、此処の品種や用途別に最適なカットオフ値を確立させることで、EGGDの鑑別診断能を向上できると提唱されています。

この研究で検討された唾液中のコルチゾル濃度は、あくまで精神的ストレスの指標であり、胃潰瘍を起こすほどのストレスの存在を検知する目的で測定されており、胃潰瘍の病変自体から分泌される訳ではないことに注意する必要があります。また、非ステロイド系抗炎症剤による胃潰瘍など、ストレスが病因でない場合にも、この手法での診断は難しいと考えられます。

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参考文献:
Sauer FJ, Bruckmaier RM, Ramseyer A, Vidondo B, Scheidegger MD, Gerber V. Diagnostic accuracy of post-ACTH challenge salivary cortisol concentrations for identifying horses with equine glandular gastric disease. J Anim Sci. 2018 Jun 4;96(6):2154-2161.

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