馬の文献:運動誘発性肺出血(Pascoe et al. 1981)
文献 - 2022年11月16日 (水)
「サラブレッド競走馬の運動誘発性肺出血:予備調査」
Pascoe JR, Ferraro GL, Cannon JH, Arthur RM, Wheat JD. Exercise-induced pulmonary hemorrhage in racing thoroughbreds: a preliminary study. Am J Vet Res. 1981; 42(5): 703-707.
この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)の病態把握のため、235頭のサラブレッド競走馬に対して、レース後の二時間以内に上部&下部気道の内視鏡検査(Upper/Lower airway endoscopy)が実施され、その所見と症例データとの比較が行われました。
この研究では、内視鏡下での運動誘発性肺出血の定量的評価(Quantitative evaluation)のため、グレード1:気管粘膜への微量の血痕(Traces of blood in tracheal mucus)、グレード2:幅が5mm未満の血流痕(Streak of blood less than 5mm wide)、グレード3:幅が5~15mmの血流痕(Streak of blood greater than 5mm wide and less than 15mm wide)、グレード4:幅が15mm以上の血流痕(Streak of blood greater than 15mm wide)、という四段階の点数化システムが用いられました。このグレード法では、血痕の幅のみが評価対象となっており、その長さや拡散度合いは考慮されていない事から、実際の病態をどの程度まで正確に評価できていたのかに関しては、疑問が残るのかもしれません。
結果としては、235頭の調査対象馬のうち103頭において、内視鏡下での運動誘発性肺出血が見られました(発症率:44%)。これらの患馬のうち、殆どの馬が整理運動中に咳嗽(Coughing)の症状を示していましたが、連続性咳嗽を呈した馬は18%(19/103頭)に留まり、また、鼻孔(Nostril)からの出血が認められたのは0.8%(2/103頭)に過ぎませんでした。この研究は、内視鏡検査によって出血元が肺である事を確認して、馬における「運動誘発性肺出血」という病名を確定診断(Definitive diagnosis)した最も初期の文献の一つです(それ以前には鼻腔&咽頭&喉頭から気管内へと血液が吸引されたという知見もあった)。この中で、咳嗽や鼻出血(Epistaxis)などの臨床症状は、必ずしも有用な診断指標にはならず、また、運動後の嚥下回数の増加(Increased swallowing)も、不整合な所見(Inconsistent signs)であった、という考察がなされています。
この研究では、調査対象となったサラブレッド競走馬における、運動誘発性肺出血の発症の有無と、着順のあいだにも相関はありませんでした。また、レースで一着~三着になった馬のデータを解析した結果、各馬の年齢や性別と、運動誘発性肺出血の発症率のあいだには、有意な相関は見られませんでした。しかし、それぞれの年齢ごとの発症率を見ると、二歳齢では36%、三歳齢では44%、四歳齢では41%、五歳齢以上では60%となっており、五歳以上ではそれ未満の馬に比べて、運動誘発性肺出血を発症し易い傾向が認められました。これは、高齢馬ほど肺病変が慢性化(Chronicity of the pulmonary lesions)していたり、以前に生じた出血病態の治癒が不十分であった事に起因する、という仮説がなされています。
この研究では、235頭の調査対象馬のうち、フロセマイドが投与されていた56頭では、運動誘発性肺出血の発症率は54%(30/56頭)に上っていた事から、フロセマイド投与による運動誘発性肺出血の予防効果(Prophylactic effect)には疑問が投げ掛けられています。一方、これらの馬において、フロセマイドが投与されたことで、出血の重篤度が減退(Reduction of severity)していた可能性は否定できない、という考察もなされています。
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この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)の病態把握のため、235頭のサラブレッド競走馬に対して、レース後の二時間以内に上部&下部気道の内視鏡検査(Upper/Lower airway endoscopy)が実施され、その所見と症例データとの比較が行われました。
この研究では、内視鏡下での運動誘発性肺出血の定量的評価(Quantitative evaluation)のため、グレード1:気管粘膜への微量の血痕(Traces of blood in tracheal mucus)、グレード2:幅が5mm未満の血流痕(Streak of blood less than 5mm wide)、グレード3:幅が5~15mmの血流痕(Streak of blood greater than 5mm wide and less than 15mm wide)、グレード4:幅が15mm以上の血流痕(Streak of blood greater than 15mm wide)、という四段階の点数化システムが用いられました。このグレード法では、血痕の幅のみが評価対象となっており、その長さや拡散度合いは考慮されていない事から、実際の病態をどの程度まで正確に評価できていたのかに関しては、疑問が残るのかもしれません。
結果としては、235頭の調査対象馬のうち103頭において、内視鏡下での運動誘発性肺出血が見られました(発症率:44%)。これらの患馬のうち、殆どの馬が整理運動中に咳嗽(Coughing)の症状を示していましたが、連続性咳嗽を呈した馬は18%(19/103頭)に留まり、また、鼻孔(Nostril)からの出血が認められたのは0.8%(2/103頭)に過ぎませんでした。この研究は、内視鏡検査によって出血元が肺である事を確認して、馬における「運動誘発性肺出血」という病名を確定診断(Definitive diagnosis)した最も初期の文献の一つです(それ以前には鼻腔&咽頭&喉頭から気管内へと血液が吸引されたという知見もあった)。この中で、咳嗽や鼻出血(Epistaxis)などの臨床症状は、必ずしも有用な診断指標にはならず、また、運動後の嚥下回数の増加(Increased swallowing)も、不整合な所見(Inconsistent signs)であった、という考察がなされています。
この研究では、調査対象となったサラブレッド競走馬における、運動誘発性肺出血の発症の有無と、着順のあいだにも相関はありませんでした。また、レースで一着~三着になった馬のデータを解析した結果、各馬の年齢や性別と、運動誘発性肺出血の発症率のあいだには、有意な相関は見られませんでした。しかし、それぞれの年齢ごとの発症率を見ると、二歳齢では36%、三歳齢では44%、四歳齢では41%、五歳齢以上では60%となっており、五歳以上ではそれ未満の馬に比べて、運動誘発性肺出血を発症し易い傾向が認められました。これは、高齢馬ほど肺病変が慢性化(Chronicity of the pulmonary lesions)していたり、以前に生じた出血病態の治癒が不十分であった事に起因する、という仮説がなされています。
この研究では、235頭の調査対象馬のうち、フロセマイドが投与されていた56頭では、運動誘発性肺出血の発症率は54%(30/56頭)に上っていた事から、フロセマイド投与による運動誘発性肺出血の予防効果(Prophylactic effect)には疑問が投げ掛けられています。一方、これらの馬において、フロセマイドが投与されたことで、出血の重篤度が減退(Reduction of severity)していた可能性は否定できない、という考察もなされています。
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