馬の文献:運動誘発性肺出血(Pascoe et al. 1985)
文献 - 2022年11月18日 (金)

「サラブレッド競走馬の運動誘発性肺出血に対するフロセマイドの治療効果」
Pascoe JR, McCabe AE, Franti CE, Arthur RM. Efficacy of furosemide in the treatment of exercise-induced pulmonary hemorrhage in Thoroughbred racehorses. Am J Vet Res. 1985; 46(9): 2000-2003.
この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)に対する、有用な予防法(Preventive measures)を検討するため、62頭のサラブレッド競走馬を用いて、フロセマイドの投与、無治療、または、生食の投与時における、上部および下部気道の内視鏡検査(Upper/Lower airway endoscopy)が行われました。
結果としては、二回~七回の連続した調教運動後に内視鏡検査が行われた馬のデータを見ると、無治療または生食投与時においては、運動誘発性肺出血の重篤度が類似していたのに対して(運動誘発性肺出血のグレードに良好な同意性が見られた)、フロセマイドの投与時においては、投与前よりも投与後のほうが、運動誘発性肺出血の重篤度が低かった事が示されました。また、三種類の治療郡(無治療、生食投与、フロセマイド投与)の全てに用いられた44頭のデータに限って見ても、フロセマイド投与された場合のほうが、されなかった場合に比べて、運動誘発性肺出血の重篤度グレードが低い傾向にあった馬が64%(28/44頭)に達していました。このため、サラブレッド競走馬の運動誘発性肺出血に対しては、競走前にフロセマイドを投与することで、発症率を下げる事は出来ないものの、病態の重篤度を抑える効能が期待できる事が示唆されました。
この研究は、馬の運動誘発性肺出血に対するフロセマイドの予防的投与(Prophylactic administration)の効能を調査した、かなり初期の文献ですが、研究デザインには幾つかの問題点が指摘されています。まず、この研究への算入基準(Inclusion criteria)として、「二回の連続した運動で内視鏡下での肺出血が認められた馬」となっており、つまり、もともと運動誘発性肺出血を起こし易い馬のみが抽出された結果、フロセマイド投与による発症率低下が示されにくかった可能性や、元々の病態の重い馬のみが対象となったため、重篤度グレードの下降(フロセマイド投与による病態改善)の度合いが過大評価(Over-estimation)された可能性、等が考えられました。さらにこの研究では、実際のレースではなく調教運動時の効能が調査されていること、内視鏡下での血痕の幅のみに基づいたグレードでは分類ミス(Misclassification)が起こりうること等も、研究デザインの限界点(Limitations)として挙げられています。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:運動誘発性肺出血