馬獣医による蹄鉗子の使い方
話題 - 2022年11月18日 (金)

馬の跛行検査では、蹄鉗子を用いて蹄底や蹄叉の圧痛反応を確かめる検査法が有用です。しかし、蹄鉗子の使い方は、検査者によって多様であると予測されます。
ここでは、蹄鉗子の使い方を、異なる検査者で比較した知見を紹介します。この研究では、先端にセンサーを取り付けた専用の蹄鉗子を用いて、学生、獣医師、獣医師による、蹄底の四箇所への圧迫を10回ずつ実施して、検査者による圧迫力の差異、および、合意限界の幅を算出することで検査者内変動の解析が行なわれました。
参考文献:
Arndt JL, Pfau T, Day P, Pardoe C, Bolt DM, Weller R. Forces applied with a hoof tester to cadaver feet vary widely between users. Vet Rec. 2013 Feb 16;172(7):182.
結果としては、蹄鉗子での圧迫力は、検査者および検査箇所の違いによって、大きな偏差があることが示されました。具体的には、蹄尖および蹄側では、学生>獣医師>装蹄師の順で圧迫力が強かったことに加えて、蹄側よりも蹄尖のほうがより強い圧迫力が掛けられていました(下記グラフ)。一方、蹄叉および蹄踵では、獣医師>装蹄師>学生の順で圧迫力が強かったことに加えて、蹄叉よりも蹄踵のほうがより強い圧迫力が掛けられていました(下記グラフ)。また、四箇所の検査箇所を総括的に見ると、装蹄師よりも獣医師のほうが、より強く蹄鉗子で圧迫しているという傾向が認められました。

この研究では、蹄鉗子での圧迫力における検査者内変動(合意限界の幅)を見たときに、蹄叉では獣医師の変動が最も大きく、蹄叉の状態に応じて、圧迫力に強弱を持たせているという傾向が見られました。また、学生の検査者内変動は、蹄尖や蹄側のほうが、蹄叉や蹄踵よりも大きくなっていました。また、四箇所の検査箇所を総括的に見ると、獣医師よりも装蹄師のほうが、より一定した圧迫力を加えている(検査者内変動が小さい)という傾向が認められました。
以上のような結果から、この論文の筆者は、検査手法としての信頼性を上げていくためには、蹄鉗子の使い方を標準化する必要があると提唱しています。しかし、世界中で蹄鉗子の使い方を統一することに、本当に意味があるのかは疑問符が付くのかもしれません。また、この研究では、検査者内変動が大きいことを、信頼性の低さと結び付けていますが、蹄病を確実に発見する(蹄鉗子検査の感度を上げる)ことを目的にするのであれば、常に一定の圧迫力を掛けること自体は、それほど重要ではないという見方も成り立つと思います。
一般的に、獣医師が蹄鉗子を使って蹄を圧迫するときには、見落としなく圧痛箇所を発見する必要があるうえに、その圧痛の重篤度も判定しようとすることで、やや強めの圧迫力を掛けることは必然だと考えられます。また、蹄叉は蹄底と異なり、乾燥度合いによって硬度に多様性が出やすいため、此処の馬の蹄叉の水和状態に応じて、疼痛の有無を確認するのに必要だと思われる量の圧迫力を掛けようとすることで、強弱にバラつきが出るのは当然であると推測されます。

つまり、今回の研究では、普段の跛行検査において、検査箇所の違いや、蹄の硬度(水和状態)に応じて、圧迫力を加減するという獣医師のマインドセットが表れて、無意識のうちに、圧迫力がやや強めになったり、検査者内変動が大きくなった可能性もあると推測されます。重要なのは、蹄鉗子検査による診断能が上がることであり、蹄鉗子からの圧迫力を毎回同じにすることではないと考えられます。
また、用手操作に頼る蹄鉗子検査では、加える圧迫力だけでなく、それに対する馬の反応性についても、主観的な評価に頼らざるを得ない側面があります。そう考えると、蹄鉗子で発見された痛みの部位や度合いに関して、再現性や一貫性に不明瞭さが残るケースでは、必ず診断麻酔によって圧痛反応の有意性を確定させることが大切だと言えます。鉗圧痛が荷重痛(=跛行)と必ずしもイコールではない、という跛行検査の原則を再認識する必要があるのかもしれません。

Photo courtesy of Vet Rec. 2013 Feb 16;172(7):182.
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