馬の文献:運動誘発性肺出血(Sweeney et al. 1990)
文献 - 2022年11月20日 (日)
「サラブレッドの競走タイムに対するフロセマイドの効果」
Sweeney CR, Soma LR, Maxson AD, Thompson JE, Holcombe SJ, Spencer PA. Effects of furosemide on the racing times of Thoroughbreds. Am J Vet Res. 1990; 51(5): 772-778.
この研究では、サラブレッド競走馬のレースタイムに対する、フロセマイドの効果を検証するため、運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)の発症馬および無発症馬を用いて、フロセマイド投与時および無治療時における、それぞれ二回のスピードハンディキャップの競走タイムを、1600mレースでのタイムに換算、および、各距離の勝利馬のタイムに基づいた共分散分析調整(Adjustment by analysis of covariance)による実質の競走タイムに算出して、治療郡間での比較が行われました。
結果としては、運動誘発性肺出血を発症していない去勢馬(Geldings)では、フロセマイド投与時のほうが、無治療時に比べて、競走タイムが有意に早かった事が示されましたが、類似の傾向は、運動誘発性肺出血を発症していない牝馬(Mares)や種牡馬(Stallions/Colts)では認められませんでした。また、運動誘発性肺出血を発症している去勢馬でも同様に、フロセマイド投与時のほうが、無治療時に比べて、競走タイムが有意に早かった事が示されました。このため、去勢馬に対するフロセマイド投与では、見た目上の競走能力の向上(レースタイムの減退)につながる事が示唆されました。
この理由については、この論文の考察内では、明瞭には結論付けられていません。しかし、馬やポニーに対するフロセマイド投与では、吸引抗原(Inhaled allergens)への気道反応の調節(Attenuation of airway responses)が起こったり、運動による気管支収縮(Bronchoconstriction induced by exercise)を減退させる効能があり、この結果、競走能力の改善につながった可能性が示唆されています。また、フロセマイドの利尿効果によって、胃腸管内液量(Gastrointestinal tract fluid volume)の一過性減少(Transient decrease)が生じて、体重が軽くなる事も、競走タイムの向上に寄与しているかもしれない、という考察もなされています。
この研究の最大の問題点としては、二因子データ解析(Bivariate data analysis)によって、各馬の性別と年齢を同時に考慮する手法が用いられていない事が挙げられています。この研究における、去勢馬郡の平均年齢(Average age)は、牝馬郡や種牡馬郡の平均年齢よりも高齢である傾向が認められており、つまり、去勢馬へのフロセマイド投与によるタイム減少効果は、馬の性別とはまったく無関係で、単なる年齢の異なる馬郡のあいだの差異であった可能性もあります。このため、同一年齢の異なった性別の馬を用いた再調査によって、実験結果の反復能(Repeatability)を証明する必要があると言えます。
この研究では、運動誘発性肺出血を発症している馬において、フロセマイド投与時に運動誘発性肺出血を起こしていた馬は62%に達しており、また、運動誘発性肺出血を発症していない馬において、フロセマイド投与時に運動誘発性肺出血を起こしていた馬は25%でした。このため、フロセマイドの投与によって、運動誘発性肺出血を予防する効果は限定的である事が示唆されました。しかし、研究開始前の内視鏡検査(Endoscopy)では、運動誘発性肺出血を見落とした馬もあったと推測されており、発症馬と無発症馬というグループ分けの信頼性には疑問符が付く、という考察がなされています。
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この研究では、サラブレッド競走馬のレースタイムに対する、フロセマイドの効果を検証するため、運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)の発症馬および無発症馬を用いて、フロセマイド投与時および無治療時における、それぞれ二回のスピードハンディキャップの競走タイムを、1600mレースでのタイムに換算、および、各距離の勝利馬のタイムに基づいた共分散分析調整(Adjustment by analysis of covariance)による実質の競走タイムに算出して、治療郡間での比較が行われました。
結果としては、運動誘発性肺出血を発症していない去勢馬(Geldings)では、フロセマイド投与時のほうが、無治療時に比べて、競走タイムが有意に早かった事が示されましたが、類似の傾向は、運動誘発性肺出血を発症していない牝馬(Mares)や種牡馬(Stallions/Colts)では認められませんでした。また、運動誘発性肺出血を発症している去勢馬でも同様に、フロセマイド投与時のほうが、無治療時に比べて、競走タイムが有意に早かった事が示されました。このため、去勢馬に対するフロセマイド投与では、見た目上の競走能力の向上(レースタイムの減退)につながる事が示唆されました。
この理由については、この論文の考察内では、明瞭には結論付けられていません。しかし、馬やポニーに対するフロセマイド投与では、吸引抗原(Inhaled allergens)への気道反応の調節(Attenuation of airway responses)が起こったり、運動による気管支収縮(Bronchoconstriction induced by exercise)を減退させる効能があり、この結果、競走能力の改善につながった可能性が示唆されています。また、フロセマイドの利尿効果によって、胃腸管内液量(Gastrointestinal tract fluid volume)の一過性減少(Transient decrease)が生じて、体重が軽くなる事も、競走タイムの向上に寄与しているかもしれない、という考察もなされています。
この研究の最大の問題点としては、二因子データ解析(Bivariate data analysis)によって、各馬の性別と年齢を同時に考慮する手法が用いられていない事が挙げられています。この研究における、去勢馬郡の平均年齢(Average age)は、牝馬郡や種牡馬郡の平均年齢よりも高齢である傾向が認められており、つまり、去勢馬へのフロセマイド投与によるタイム減少効果は、馬の性別とはまったく無関係で、単なる年齢の異なる馬郡のあいだの差異であった可能性もあります。このため、同一年齢の異なった性別の馬を用いた再調査によって、実験結果の反復能(Repeatability)を証明する必要があると言えます。
この研究では、運動誘発性肺出血を発症している馬において、フロセマイド投与時に運動誘発性肺出血を起こしていた馬は62%に達しており、また、運動誘発性肺出血を発症していない馬において、フロセマイド投与時に運動誘発性肺出血を起こしていた馬は25%でした。このため、フロセマイドの投与によって、運動誘発性肺出血を予防する効果は限定的である事が示唆されました。しかし、研究開始前の内視鏡検査(Endoscopy)では、運動誘発性肺出血を見落とした馬もあったと推測されており、発症馬と無発症馬というグループ分けの信頼性には疑問符が付く、という考察がなされています。
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