馬の腹水検査での急性期蛋白
話題 - 2022年11月20日 (日)

馬の腹水検査は、腹腔臓器の病態を反映することが多いため、疝痛などの消化器疾患の診断に応用されています。
ここでは、疝痛馬の腹水検査における、急性期蛋白濃度の有用性を評価した知見を紹介します。この研究では、デンマークと南アフリカの獣医大学病院において、2008~2011年にかけて、疝痛の診断や治療のために来院した367頭の馬における、血液中および腹水中の急性期蛋白(血清アミロイドエー[SAA]、ハプトグロブリン[Hp])の濃度測定が行なわれました。
参考文献:
Pihl TH, Scheepers E, Sanz M, Goddard A, Page P, Toft N, Andersen PH, Jacobsen S. Influence of disease process and duration on acute phase proteins in serum and peritoneal fluid of horses with colic. J Vet Intern Med. 2015 Mar-Apr;29(2):651-8.
結果としては、疝痛馬の腹水検査において、疝痛の経過が長くなるほど、腹水中のSAA濃度とHp濃度が高くなる傾向が認められた一方で、疝痛経過と血中SAA濃度には有意な相関はありませんでした。また、経過の長い疝痛馬(五時間以上)では、病態の種類(閉塞性、絞扼性、炎症性)と、血中SAAおよびフィブリノーゲン濃度とのあいだに、有意な相関が認められました。
このため、疝痛馬の腹水検査では、急性期蛋白濃度を測定することで、一次疾患の進行度合いを評価できるという可能性が示唆されました。また、経過が進行した段階では、血液検査での急性期蛋白濃度も、病態の種類を推定する一助になると考えられました。この研究では、全ての疝痛馬が開腹術となった訳ではないことから、実際の消化管病態の重篤度は、評価対象になっていなかったため、今後の検討が有益だと考察されています。

この研究では、疝痛の原因疾患を、閉塞性疾患(結腸食滞や盲腸食滞、上図の青色)、絞扼性疾患(結腸捻転や小腸絞扼、上図の黒色)、炎症性疾患(近位小腸炎や腹膜炎、上図の赤色)に分類して比較したところ、疝痛発症から24時間以降の腹水検査では、閉塞性疾患に比較して、絞扼性疾患や炎症性疾患のほうが、腹水中のSAA濃度が有意に高いことが分かりました。一方、疝痛発症から5~24時間後の腹水検査では、腹水SAA濃度の個体差が大きく、群間の有意差は認められませんでした。
このため、腹水中の急性期蛋白濃度は、原因疾患のタイプを推測する一助になるものの、特に経過初期の段階では、その鑑別能はそれほど高くないため、他の臨床所見やエコー診断を考慮して、推定診断を下す必要があると考えられました。また、経時的に測定値の変化を見ることで、原因疾患の鑑別が可能となるケースもあると言えそうです。一方、炎症性疾患の発症5~12時間後では、血中のSAA濃度も有意に上昇していたことから、腹水検査と血液検査を比較することも、鑑別疾患において有用だと考察されています。

一般的に、SAAの濃度上昇は、炎症初期のサイトカイン生成によって、肝臓でのSAA合成促進により起こるため、その後に、消化管の炎症による滲出または絞扼による漏出を介して、腹水中のSAA濃度が上昇すると考えられています。このため、小腸炎や腹膜炎によって広い範囲の漿膜面からSAA滲出が生じることが、炎症性疾患での腹水SAA濃度の高さの要因であると推測されています。一方、疼痛の強さから絞扼性疾患が疑われる症例では、腹水SAA濃度の上昇度合いが、絞扼を受けている腸管の長さの指標になるという可能性も示唆されています。
この研究では、高齢な馬ほど、血中Hp濃度が低い傾向が認められ、疝痛馬の検査値を解釈するときに考慮するべきだと考えられました。一方、過去の文献では、牡馬よりも牝馬のほうが、血中Hp濃度が高かったという知見もあります。なお、腹水中のHp濃度は、性別や年齢とは相関していませんでした。
Photo courtesy of J Vet Intern Med. 2015 Mar-Apr;29(2):651-8.
関連記事:
・馬の腹水採取のためのエコー検査
・腹水検査での馬の肝疾患の診断
・腹水検査での産後牝馬の診断
・馬の敗血症での腹水MMP9濃度
・馬の寄生疝における腹水NGAL濃度
・馬の疝痛検査5:腹水検査