馬の文献:運動誘発性肺出血(Lapointe et al. 1994)
文献 - 2022年11月22日 (火)

「ケベック州のスタンダードブレッド競走馬における運動誘発性肺出血の調査」
Lapointe JM, Vrins A, McCarvill E. A survey of exercise-induced pulmonary haemorrhage in Quebec standardbred racehorses. Equine Vet J. 1994; 26(6): 482-485.
この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary haemorrhage)の病態把握のため、無作為選択(Random selection)されたスタンダードブレッド競走馬(三~十歳)の三回のレース後における、上部および下部気道の内視鏡検査(Upper/Lower airway endoscopy)、および、競走記録と医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、全体としての運動誘発性肺出血の発症率は62%で、三回の内視鏡検査のうち少なくとも一回において、運動誘発性肺出血の発症が確認された馬は87%に上っており、また、三回とも運動誘発性肺出血の発症が確認された馬も52%に達していました。この調査結果と、他の文献データを比較した場合、スタンダードブレッド競走馬における運動誘発性肺出血の発症率は、サラブレッド競走馬並みに高く、また、三歳以下のスタンダードブレッド競走馬も含めた場合に比べると、運動誘発性肺出血の発症率が高い傾向にある事が示唆されています。
この研究では、運動誘発性肺出血の発症が確認された馬のうち、その発症の有無および発症頻度(Presence or frequency)は、各馬の年齢、性別、歩様の種類とは相関していませんでした。また、運動誘発性肺出血の発症馬と無発症馬のあいだで、レースタイム、着順、血液中の乳酸濃度(Blood lactate concentration)には有意差は認められませんでした。このため、この研究の結果からは、スタンダードブレッド競走馬における運動誘発性肺出血の発症素因(Predisposing factors)は示されず、また、運動誘発性肺出血の発症が競走成績(Racing performance)に影響を与えるという明確な証拠も認められませんでした。
この研究では、それぞれの調査日ごとに、運動誘発性肺出血を発症した馬の頭数と、その日の天候データとの関係が調査された結果、大気の気温(Air temperature)の低い日ほど、運動誘発性肺出血の発症率が高い傾向が認められました。この理由としては、肺胞上皮(Alveolar epithelium)に達した低温の空気によって、上皮深部の毛細血管壁(Underlying capillary wall)が冷やされ、その強直性(Rigidity)が増した結果、内圧上昇による破裂を起こし易くなった、という仮説がなされています。
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