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馬のPAAG注射の滑膜への影響

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馬の跛行の原因としては、最も多いのが変性関節疾患であることが知られており、その治療法として注目されるのがPAAG関節注射法になります。

ここでは、馬の関節に注射されたPAAGが、滑膜にどのように作用しているかを評価した知見を紹介します。この研究では、まず10匹のウサギを用いて、PAAGまたはヒアルロン酸ゲル(HAG、対照群)の関節注射の一年後までの滑膜組織の組織学的評価を行ない、次に、関節炎を呈した14頭の馬に対して、PAAG関節注射の二年後までの滑膜組織の組織学的評価が実施されました。

参考文献:
Christensen L, Camitz L, Illigen KE, Hansen M, Sarvaa R, Conaghan PG. Synovial incorporation of polyacrylamide hydrogel after injection into normal and osteoarthritic animal joints. Osteoarthritis Cartilage. 2016 Nov;24(11):1999-2002.

この研究では、PAAG注射されたウサギの関節では、対照群と比較して、滑膜層が10倍近く肥厚しており、その表面に滑膜絨毛が認められました。この層内には、滑膜細胞が点在する線維組織ネットワークがゲル内に浸潤しており、関節腔にはゲル成分は認められませんでした。一方、PAAG注射された馬の関節では、PAAG成分が滑膜内に層状に統合されて、その表面に滑膜細胞と滑膜絨毛の層が形成されている(下写真左の黒矢印、下写真右は対照群)のが確認されました。このようなPAAG層は、注射の三ヶ月までに滑膜内に統合されて、24ヶ月の時点で菲薄化せずに残存しており、細かい線維組織ネットワークの浸潤を伴っていました。

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以上の結果から、関節内投与されたPAAGは、滑膜の内張り組織の深部に層を成して、その表層(関節腔側)に滑膜細胞や滑膜絨毛が再配置されることが分かり、このPAAG層は二年間にわたって維持されていました。このような層形成によって、関節炎の疼痛が緩和されるまでのメカニズムは明らかにされていませんが、滑膜組織の柔軟性やクッション性を増強して、運動負荷による滑膜への微細損傷や炎症介在物質の生成を抑える効能があった、という仮説は成り立つのかもしれません。

一方、注射されたPAAG成分は、滑膜内に層状に限局していて、関節腔内には残っていなかった事から、PAAGのゲル成分が直接的に関節軟骨への潤滑作用をもたらすことは無いと推測されます。このため、PAAG注射は、軟骨の治癒促進を直に担っている訳ではないことから、関節炎が進行して、軟骨の変性・虚弱化・剥離が生じた結果、関節面の連続性が損失したり、軟骨下骨露出に至ってしまった場合には、疼痛軽減などの症状改善も限定的に留まると推測されています。

また、PAAG投与が関節痛を緩和する理由として、滑膜内にPAAG層が形成されることで、関節液の粘性に寄与している高分子成分を関節内に閉じ込めて潤滑作用を保ちやすくなる、というメカニズムの仮説は成り立ちます。その一方で、関節軟骨には血液供給する血管が無く、関節液を介して酸素や栄養が運ばれていることを考えると、滑膜内に形成されたPAAG層によって、血管→滑膜絨毛→関節液→関節軟骨という供給経路に、障壁が一つ増えてしまうという懸念は拭えません。

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そして、滑膜の内部にPAAG層が構築されてしまうと、好中球などの細胞成分の遊走や浸潤が妨害または遅延される、という可能性もあります。その場合、PAAG層が何年にもわたって遺残することを考えると、PAAG注射された関節に、再度の関節注射をしたり、関節鏡手術を実施した場合や、その肢にフレグモーネや穿孔性の外傷を発症した場合などでは、通常の関節よりも易感染性になってしまうリスクも心配されます。

以上を踏まえると、今後の研究では、PAAG成分が滑膜に統合されてしまった関節が、自然な状態の関節と同等の恒常性や防御機能を有しているかを評価することで、PAAGの関節内投与における安全性を確認する必要があると言えそうです。何より、異物であるポリマー成分が、体内にずっと残ってしまうことで、馬の健康に長期的な影響を出したり、もしも、その馬が廃用となり食肉転用された際に、ヒトへの影響が無いのかを確認することも必要だと言えます。

Photo courtesy of Osteoarthritis Cartilage. 2016 Nov;24(11):1999-2002.

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このエントリーのタグ: 治療 関節炎

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