競走馬の関節炎でのPAAG治療
話題 - 2022年11月23日 (水)

馬の跛行の原因としては、最も多いのが変性関節疾患であることが知られており、その治療法として注目されるのがPAAG関節注射法になります。
ここでは、競走馬の関節炎に対するPAAG治療を、従来の関節注射療法と比較した知見を紹介します。この研究では、手根関節炎を呈した31頭のサラブレッド競走馬に対して、PAAG関節注射、トリアムシノロン(HA)、または、ヒアルロン酸(HA)の関節注射を無作為に実施して、その後の12週間にわたる跛行検査が実施されました。
参考文献:
de Clifford LT, Lowe JN, McKellar CD, McGowan C, David F. A Double-Blinded Positive Control Study Comparing the Relative Efficacy of 2.5% Polyacrylamide Hydrogel (PAAG) Against Triamcinolone Acetonide (TA) And Sodium Hyaluronate (HA) in the Management of Middle Carpal Joint Lameness in Racing Thoroughbreds. J Equine Vet Sci. 2021 Dec;107:103780.
結果としては、注射の六週間後に無跛行であった馬の割合は、PAAG治療群では83%に上っており、その効果は、12週間後まで続いていました。一方、無跛行の馬の割合は、TA治療群では27%、HA治療群では40%に過ぎず、PAAG治療のほうが有意に高い効能を示していました。また、関節膨満の所見についても、PAAG治療による良好な改善効果が示されています。このため、サラブレッド競走馬の手根関節炎に対しては、従来の関節注射よりも、PAAG関節注射のほうが優れた治療効果が期待されると結論付けられています。

この研究では、治療対象となった全症例で、治療前の跛行は軽度から中程度(跛行グレード1~3)に留まっていました。また、治療前のX線検査によって、小片骨折などを発症していた馬は除外されていました。つまり、重度の関節痛や、関節軟骨の損傷を呈した馬は含まれていないと推測され、病態が進行してしまった重篤な関節炎に対するPAAG治療の効能については、今後の検討を要すると言えます。
この研究では、治療対象となった馬は、関節麻酔によって手根関節痛の確定診断が下されており、厳格な取り込み基準が保たれていました。また、治療群は無作為に選択され、治療後の跛行検査も二重盲検とされており、治療法の選択や評価者のバイアスの影響は除外されていました。一方、治療効果の評価は、あくまで主観的な歩様観察や屈曲試験に留まっており、歩様解析法などによる客観的な荷重痛の定量化や、関節液検査やX線検査による滑膜炎や画像診断所見の改善度合いは評価されていませんでした。

なお、現時点(2022年11月)において、馬の関節炎に対するPAAG投与は、アメリカ食品医薬品局(FDA)からは認可されていません。また、米国や英国の有名な獣医学雑誌(JAVMA, AJVR, EVJ, JVIM, Vet Surg)には、馬のPAAG治療に関する論文は一報も載っていません。これが、安全性に関するエビデンス不足のためなのか、既存の治療法との競合を嫌う企業政治的な意図なのかは不明です。
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