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馬の補液2:補液剤の量と種類

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馬の疝痛治療における補液療法(Fluid therapy)について。

馬の補液療法の実施に際して、合計補液量の計算は、損失水分量(Water deficit)、維持水分量(Maintenance)、持続損失量(Ongoing losses)、追加水分量(Additional fluid requirement)の合計によって算出され、脱水症の治療に際しては12時間にわたる補液後、血液検査で経過をモニタリングして次の12時間の補液量を再計算する指針が一般的です。つまり、損失水分量+維持水分量+持続損失量+追加水分量、によって12時間分の合計補液量を算出した後、これを12で割って毎時補液量を決定します(下図)。

損失水分量は、正常時体重×脱水%で計算され、正常時体重は入院時体重÷(1-脱水%)で算出されます。入院時に体重450kgの馬が5%脱水を示した場合には、正常時体重は450/0.95=474kgで、損失水分量は474x0.05=24Lとなります。

維持水分量は、成馬では正常時体重×2.5mL/kg/hrで計算されますが(=60mL/kg/day)、新生児では4~5mL/kg/hrとなります。入院時に体重450kgの馬が5%脱水を示した場合には、正常時体重は450/0.95=474kgで、12時間分の維持水分量は474x2.5mLx12=14Lとなります。

持続損失量は、下痢症や十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis: DPJ)において重要な要因を占め、経鼻カテーテルからの胃液排出などを除けば正確な損失量の計算は困難な場合が殆どです。予測される持続損失量は、最も重篤な下痢症においては正常時体重×8mL/kg/hrに達する可能性が示されていますが、一般的には軽度の下痢&DPJでは2mL/kg/hr、中程度の下痢&DPJ では4mL/kg/hr、重度の下痢&DPJでは6mL/kg/hrとする指針が提唱されています。入院時に体重450kgの馬が5%脱水と軽度の下痢症を示した場合には、正常時体重は450/0.95=474kgで、12時間分の持続損失量は474x2mLx12=11Lとなります。

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追加水分量は、多くの疝痛馬には不必要ですが、大結腸便秘(Large colon impaction)などの症例において、一時的な過水和(Transient overhydration)の状態を作り出すことで、血漿&間質液から消化管内腔液(Gastrointestinal lumen fluid)への水分移動を起こして、停滞している腸内容物の軟化を促す目的で実施されます。追加水分量は、一般的に維持水分量と同等量とされますが(正常時体重×2.5mL/kg/hr)、継続的モニタリングによってこの投与量に難治性を示す便秘症に対しては、追加水分量が増加される場合もあります。入院時に体重450kgの馬が5%脱水と大結腸便秘を示した場合には、正常時体重は450/0.95=474kgで、12時間分の維持水分量と追加水分量は共に474x2.5mLx12=14Lとなります。

患馬が重篤な血液量減少症(Hypovolemia)を示した場合には、数時間以内での救急蘇生(Emergency resuscitation)を要します。救急蘇生治療に用いられるショック補液量は、正常時体重×60~80mLで計算され、このショック補液量の四分の一を30分以内に急速に投与して病態のモニタリングを行い、血液量減少症の改善が見られない場合には、さらにこのショック補液量の四分の一を30分以内に投与するという過程を繰り返します。入院時に体重450kgの馬が10%脱水と重篤な血液量減少症を示した場合には、正常時体重は450/0.90=500kgで、ショック補液量は500x80mL=40Lとなり、この四分の一にあたる10Lを迅速に投与して、血液量減少症の改善の評価が行い、さらに10Lを投与する過程を繰り返します。



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馬の補液療法における再水和(Rehydration)のためには、血漿量を増やしながら電解質撹乱(Electrolyte disturbance)を最小限にするため、等張晶質液(Isotonic crystalloid solution)が最も一般的に用いられ、0.9%生理食塩水(Saline)、リンゲル溶液(Riger’s solution)、乳酸リンゲル溶液(Lactated Ringer’s solution)、Normosol-R、Plasma-Lyte-148等が挙げられます。上表のように、各等張晶質液は異なった電解質組成を持つため、血液検査による電解質不均衡(Electrolyte imbalance)を的確に評価して、最も適した溶液を選択することが重要です。

疝痛の罹患馬では、血中乳酸濃度の上昇が見られる症例が多いため、乳酸リンゲル溶液使用の是非に関しては論議がありますが、一般的に肝機能が正常である限りにおいては、乳酸リンゲル溶液中に含まれるレベルの乳酸によって、病態悪化を引き起こす危険は少ないと考えられています。0.9%生理食塩水におけるCl:Na比は血漿のそれよりも高く、軽度の高クロール性アシドーシス(Hyperchloremic acidosis)を引き起こす可能性があるため、血液量減少症に対する救急蘇生には使用禁忌とされています。

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高張生理食塩水(Hypertonic saline: 7.0-7.5%)は、投与後に間質液(Interstitial fluid)を血漿液中に引き込む作用があるため、重篤な血液量減少症において迅速に循環血液量を回復させる効果が期待できますが、その投与直後には大量の等張晶質液(1Lの高張生理食塩水に対して最低10Lの等張晶質液)を投与することが重要です。また、高張生理食塩水の投与では、口渇感(Thirst)を起こして患馬の自発的飲水(Spontaneous water intake)を促進したり、毛細血管内皮腫脹(Capillary endothelial swelling)を減退させて組織微細循環および酸素供給の改善(Improved microcirculation and oxygen delivery)させる効果も期待できます。

凍結血漿(Frozen plasma)やHetastarchなどの膠質液(Colloid solution)は、高分子量粒子(High molecular weight molecules)を含み脈管外への漏出が最小限であるため、より迅速な再水和と浮腫改善(Edema improvement)が期待できることから、特に急性下痢症(Acute diarrhea)などの低蛋白血症(Hypoproteinemia)の患馬における補液療法に併用されます。

経口補液療法(Oral fluid therapy)は、血液量減少症までには至っていない脱水症例、および大結腸便秘(Large colon impaction)などの経腸補液を要する症例に対して有効で、迅速かつ安価に実施できる利点があります。最も簡易な経口補液の作成法としては、水道水1L当たりに4.9gのTable salt(=NaCl)と4.9gのLite salt(=NaCl+KCl)を加えることで、適切なナトリウム(123mmol/L)、カリウム(34mmol/L)、クロール(157mmol/L)の濃度を得ることが可能で、これは1ガロンの水(約4L)に対して15mLシリンジ一杯分のTable saltとLite saltを添加するのと同じ容量となります。経口補液は胃カテーテルを介して行われ、一回の注入量を8~10Lとすること、20分以上の投与間隔を空けること、各回の投与前に2L以上の胃液逆流が無いことを確かめること、等に注意することが大切です。



*注意:馬の補液療法は、適応症例の品種や年齢、用途、気性、経済的要因によって多様性があり、また、全身病的状態の診断方法と、その結果に基づく補液量、補液剤の種類、補液の添加剤選択、および、補液療法の効能評価にも異なる手法や方針があります。ですので、この補液シリーズでの記述は、あくまで医療技術の概要解説として御参照して下さい。

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