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馬の補液4:電解質の補正

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馬の疝痛治療における補液療法(Fluid therapy)について。

ナトリウムは細胞外液(Extracellular fluid: ECF)の主成分で、カリウムは細胞内液(Intracelullar fluid: ICF)の主成分であるため、血清カリウム濃度は全身のカリウム損失量の目安としての信頼性は低いことが知られています。しかし、ナトリウムとカリウムは常に細胞膜チャンネルを介しての交換が行われているため、血清ナトリウム濃度はECFのナトリウム量のみならず、ECFとICFの両方における交換可能陽イオン量(Exchangeable cation)を反映しているため(下図)、ナトリウムとカリウムの両方の損失量の計算に用いられます。交換可能陽イオン量は、総体液量×血清Na濃度で計算されます。

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交換可能陽イオンの損失量は、正常時の交換可能陽イオン量(正常時体液量×140mEq)と入院時の交換可能陽イオン量(入院時体液量×入院時Na濃度)の差で求められます。一般的に電解質異常の経過が急性期である場合を除いて、交換可能陽イオン損失量うち三分の二がECFから失われ、残りの三分の一がICFから失われたことが推測されるため、交換可能陽イオンの損失量の三分の二を総ナトリウム損失量として計算し、残りの三分の一を総カリウム損失量として計算します。

入院時に体重450kgの馬が5%脱水を示した場合には、正常時体重は450/0.95=474kgであるため、正常時体液量は474x0.6=284Lで、入院時体液量は450x0.6=270Lとなります。この患馬が、血清ナトリウム濃度119mEq/L、カリウム濃度2.7mEq/Lを示した場合には、正常時交換可能陽イオン量は284x140=39760mEqで、入院時交換可能陽イオン量は270x119=32130mEqとなるため、交換可能陽イオンの損失量は39760-32130=7630mEqとなります。この計算値に基づいて、総ナトリウム損失量は7630x2/3=5087mEqで、総カリウム損失量は7630x1/3=2543mEqと計算されます(下図)。

クロールはその殆どがECFに含まれているため、正常時ECF量と正常時血清クロール濃度(110mEq/L)、および入院時ECF量と入院時血清クロール濃度から推測が可能で、総クロール損失量は、正常時総クロール量(正常時ECF×110)と入院時総クロール量(入院時ECF×入院時血清クロール濃度)の差で求められます。

入院時に体重450kgの馬が5%脱水を示した場合には、正常時体液量は474x0.6=284L、正常時ECF量は284x1/3=95L、入院時体液量は450x0.6=270L、入院時ECF量は270x1/3=90Lとなります。この患馬が、血清クロール濃度74mEq/Lを示した場合には、正常時総クロール量は95x110=10450mEqで、入院時総クロール量は90x74=6660mEqとなり、総クロール損失量は10450-6660=3790mEqと計算されます。

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ナトリウム、カリウム、クロールの損失量が求められた後には、各電解質の投与量を計算しますが、この場合には、再水和(Rehydration)のために投与される等張晶質液(Isotonic crystalloid solution)に元々含まれている電解質量を計算してから、不足分の電解質を溶液中に補給します。一般的に、等張晶質液には低量のカリウムしか含まれないため、カリウム損失量を補うためには、溶液中へのカリウム添加を要しますが、この際には、カリウム総投与量が、入院時体重に基づいて0.5mEq/kg/hrを超えないように調節することが重要です。一方、ナトリウムとクロールの損失量は、等張晶質液に元々含まれる量のナトリウムおよびクロールによって、不足分の供給が可能な場合が殆どで、損失量が多い症例に対しても、ナトリウム&クロール含有量の多い0.9生理食塩水を選択することで、損失量の全てを補給できることが殆どです。

上述の患馬に対して、12時間にわたって50Lの補液が行われると仮定すると、Normosol-R溶液(Na:140mEq/L, K:5mEq/L, Cl:98mEq/L)が投与される場合には、総ナトリウム投与量は50x140=7000mEqとなり、5087mEqである総ナトリウム損失量を満たし、また、総クロール投与量は50x98=4900mEqとなり、3790mEqである総クロール損失量を満たします。しかし、総カリウム投与量は50x5=250mEqにしか過ぎず、2543mEqである総カリウム損失量分の補給には足りないため、Normosol-R溶液中への2293mEqのカリウム添加を要し、添加量は1LのNormosol-R当たり46mEq(2293/50=46)で、最も一般的に用いられる塩化カリウム溶液(2mEq/mL)では23mL(46/2=23)となります。この結果、毎時のカリウム投与量は212mEq/hr(2543mEqを12時間にわたって補液)となり、最大安全投与量である225mEq/hr(入院時体重450kg×0.5mEq/kg/hr)より少ないため、副作用を示すことなく12時間以内にカリウム損失の全量の補給が可能となります(上表)。



*注意:馬の補液療法は、適応症例の品種や年齢、用途、気性、経済的要因によって多様性があり、また、全身病的状態の診断方法と、その結果に基づく補液量、補液剤の種類、補液の添加剤選択、および、補液療法の効能評価にも異なる手法や方針があります。ですので、この補液シリーズでの記述は、あくまで医療技術の概要解説として御参照して下さい。

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