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馬の補液6:酸塩基平衡

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馬の疝痛治療における補液療法(Fluid therapy)について。



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代謝性アシドーシス(Metabolic acidosis)は、疝痛の罹患馬に最も多く見られる酸塩基不均衡(Acid-base imbalance)で、血液pHおよび重炭酸イオン(Bicarbonate ion: HCO3)の下降を特徴とし、ナトリウム損失を伴う血液量減少症(Hypovolemia)、下痢症(Diarrhea)による消化管からの重炭酸損失、食道閉塞(Esophageal obstruction)の初期病態における過剰な流涎中へのナトリウム損失などが原因となります。代謝性アシドーシスの代償性反応(Compensatory response)では、過換気(Hyperventilation)による二酸化炭素分圧(Partial pressure of carbon dioxide)の下降が起こります。

代謝性アルカローシス(Metabolic alkalosis)は、血液pHおよび重炭酸イオンの上昇を特徴とし、食道閉塞における過剰な流涎中への水素イオン損失(Hydrogen ion loss)、十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)や馬自律神経異常症(Equine dysautonomia:いわゆるグラスシックネス(Grass sickness)における多量の胃液逆流(Excessive nasogastric reflux)による水素イオン損失、小腸閉塞(Small intestinal obstruction)などが原因となります。代謝性アルカローシスの代償性反応では、低換気(Hypoventilation)による二酸化炭素分圧の上昇が起こります。

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呼吸性アシドーシス(Respiratory acidosis)は、血液pHの下降と二酸化炭素分圧の上昇を特徴とし、低換気を引き起こす肺炎(Pneumonia)、気胸(Pneumothorax)、回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)などが原因となります。呼吸性アシドーシスの代償性反応では、腎臓での重炭酸保持(Renal retention of bicarbonate)による重炭酸イオンの上昇が起こりますが、この反応の発現には数日間を要し、慢性病態の呼吸性アシドーシスにのみ見られることが知られています。

呼吸性アルカローシス(Respiratory alkalosis)は、血液pHの上昇と二酸化炭素分圧の下降を特徴とし、低酸素症(Hypoxemia)と過換気を引き起こす肺疾患、先天性心不全(Congestive heart failure)、重度貧血(Severe anemia)、神経器疾患(Neurologic disorders)などが原因となります。呼吸性アルカローシスの代償性反応では、腎臓での重炭酸再吸収減少(Decreased renal resorption of bicarbonate)による重炭酸イオンの下降が起こり、腎臓でのクロール保持に起因して高クロール血症(Hyperchloremia)を続発する場合もあります。

また、複数の原発疾患が関与した症例においては、混合性酸塩基不均衡(Mixed acid-base imbalance)を生じ、代謝性アシドーシスと代謝性アルカローシスの混合、呼吸性アシドーシスと呼吸性アルカローシスの混合などが起こりうることが知られており、通常ならば同じ方向(下降または上昇)に変化するはずの重炭酸イオンと二酸化炭素分圧(一次性不均衡か代償性反応に関わらず)が、反対方向への変化を示します。



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酸塩基不均衡の治療では、原因疾患の治療や一次性電解質不均衡(Primary electrolyte imbalance)の補正を第一指針とし、特に疝痛馬に好発する代謝性アシドーシスでは、重炭酸イオンが-15mEq/L以下になったり、血液pHが正常範囲内から顕著に逸脱しない限りは、直接的な酸塩基不均衡の補正は要しないことが示唆されています。補液療法による代謝性アシドーシスの補正が選択された場合には、重炭酸イオンの損失量は、正常時体重×0.5×塩基過剰量(Base excess: BE)によって計算され、この損失量に相当する重炭酸ナトリウムの経口投与、もしくは補液溶液中への重炭酸ナトリウム溶液(Sodium bicarbonate solution)の添加が行われます。

入院時に体重450kgの馬が5%脱水、血液pH=7.16、二酸化炭素分圧=37.1mmHg、重炭酸イオン=12.1mEq/L、塩基過剰量=-15.9mEq/Lを示した場合には、矯正を要する代謝性アシドーシスの発症が疑われ、正常時体重は450/0.95=474kgであるため、重炭酸イオン損失量は474x0.5x15.9=3768mEqと計算されます。この患馬に12時間にわたって50LのNormosol-R溶液の補液が行われると仮定すると、急激な電解質不均衡の矯正を避けるため24時間以内での損失量の投与を行うため、損失量の半分である1884mEqを12時間で補液することが推奨され、1LのNormosol-R溶液当たり40mEq(総投与量:40x50=2000mEq)の重炭酸ナトリウム溶液の添加が行われます。この際には、リンゲル溶液などのカルシウムを含む液体や、23%ボログルコン酸カルシウム溶液等が添加された補液中には、重炭酸ナトリウム溶液を混ぜることは出来ないことに注意します。



*注意:馬の補液療法は、適応症例の品種や年齢、用途、気性、経済的要因によって多様性があり、また、全身病的状態の診断方法と、その結果に基づく補液量、補液剤の種類、補液の添加剤選択、および、補液療法の効能評価にも異なる手法や方針があります。ですので、この補液シリーズでの記述は、あくまで医療技術の概要解説として御参照して下さい。

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