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馬の疝痛スコアによる予後判定

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馬の疝痛では、心拍数や血中乳酸値など、病気の重さを示す重要な検査項目が幾つかあるため、それらを総括的に読み取って、全身状態の重篤度や予後の悪さを判断する必要があります。

ここでは、そのような多数の項目をまとめて、一つの数字に変換して予後判定するという「疝痛スコアシステム」(Colic scoring system)について検討した知見を紹介します。この研究では、米国の複数の馬病院において、2014~2019年にかけて、疝痛の診断や治療のため来院した馬のうち、血液検査・直腸検査・エコー検査が行なわれていた67頭における医療記録の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Farrell A, Kersh K, Liepman R, Dembek KA. Development of a Colic Scoring System to Predict Outcome in Horses. Front Vet Sci. 2021 Oct 8;8:697589.

この研究では、心拍数、呼吸数、血中Ca濃度、血中乳酸濃度、腹部エコー検査、直腸検査に基づいて、0~12点の疝痛スコアが算出されました。そして、疝痛スコアで7をカットオフ値として、スコア0~7では生存する、スコア8~12では生存できないと予測した場合に、最も信頼性の高い予後判定ができることが提唱されています。この場合の感度は86%、特異度は64%、陽性的中率は88%、陰性的中率は57%となっていました。なお、疝痛スコアを用いた生存/非生存の判定における、ROC曲線下面積は0.82となっていました。

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一般的に、検査方法での診断能を評価するときに、ROC曲線下面積が0.8以上であれば良好、0.9以上で優れている、0.95以上で非常に優れている、と判断されることから、この研究の疝痛スコアにおける0.82というROC曲線下面積を見ると、比較的に良好な予後判定が可能だという見方もできます。実際、他の二箇所の馬病院で、95頭の疝痛馬を対象にして、このカットオフ値を用いたところ、生存馬の予測における感度は84%、特異度は62%、陽性的中率は88%、陰性的中率は52%となりました。

しかし、疝痛の予後という観点に立つと、88%という陽性的中率は、的中しない確率が11%もあるため、十分に高いとは言い切れません。なぜなら、疝痛スコアで生存できないと判断されて安楽殺となった場合、そのうちの九頭に一頭は、実際には生存できたという事になるからです。この要因としては、86%という感度の“低さ”が挙げられ、此処の病気の種類やステージによっては、たとえ疝痛スコアが8以上でも、生存を果たした馬が一定数(約七頭に一頭)いたことを意味しています。このため、今後の研究では、此処の疾患ごとにスコアの定義(上表)を調整して、100%に近い陽性的中率を達成できるシステムを構築する必要があると言えそうです。

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この研究では、生存馬と非生存馬を比較した場合、疝痛スコアが1上がるごとに、生存率が約30%下がる(生存のオッズ比=0.69)という結果が示されました。つまり、カットオフ値である疝痛スコア7と比べた時に、スコア9の馬は生存率が半分以下になり(0.69の二乗は0.48)、スコア11の馬は生存率が1/4以下になる(0.69の四乗は0.23)という使い方ができると言えます(スコア7の場合の生存率の実数値は、疾患によって様々)。ただ、スコア1の上下変動は、どの項目かによって重要度が異なることに注意して、さらに、同じスコアの範囲内でも、検査値の改善や悪化について考慮すべきと言えます(例:同じスコア2の範囲でも、乳酸値が6.0→2.1に下がるのは生存率向上に繋がる)。

この研究では、取り込み基準として六ヶ月齢以下の子馬は除外されていますので、今後の研究では、子馬だけのデータを用いて、成馬とは異なる疝痛スコアシステムを確立することが有益だと考えられます。また、この研究では、疝痛スコアを手計算できるよう、30個にのぼる検査項目の中から、有力な六項目に絞って予後判定が試みられていました(上表)。しかし、獣医療でも電子カルテが普及していけば、ヒト医療でも応用されているように、全ての検査項目を含めて、アルゴリズムで自動計算することで、より信頼性の高い予後判定指標を算出できるかもしれません。

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