馬の病気:滑膜ガングリオン
馬の運動器病 - 2013年08月31日 (土)

滑膜ガングリオン(Synovial ganglion)について。
腱鞘(Tendon sheath)または関節包(Joint capsule)の損傷部から滑膜(Synovial membrane)がヘルニアを起こし、皮下に嚢胞形成(Cyst formation)を生じる疾患です。腱鞘や関節包の損傷は挫傷(Contusion)や関節過伸展(Joint hyperextension)などの外傷性に起こるほか、関節鏡手術や腱鞘鏡手術(Arthroscopy/Tenoscopy)、関節・腱鞘切開術(Arthrotomy/Tenosynovectomy)、関節注射(Joint injection)および腱鞘内注射(Intrathecal injection)等に起因して、医原性疾患(Iatrogenic disorders)として発症する場合もあります。
滑膜ガングリオンの症状としては、腱鞘や関節包よりも表層部における軟性腫脹が見られ、限局性に膨満を呈する所見で、腱鞘炎(Tenosynovitis)、関節炎(Arthritis)、滑液嚢炎(Bursitis)との鑑別が可能な場合もあります。滑膜ガングリオンの確定診断(Definitive diagnosis)は、超音波検査(Ultrasonography)によって下され、嚢胞が腱鞘や関節包の外層壁(Outer layer wall)よりも皮下組織側に生じている事が確認され、腱鞘や関節包との連絡孔が観察される症例もあります。また、腱鞘や関節包のレントゲン造影(Contrast radiography)によって、滑液の嚢胞内への漏出を確かめる手法も有効です。
滑膜ガングリオンの治療では、嚢胞を外科的切除(Cyst resection)した後、腱鞘や関節包を縫合閉鎖し、術後の馬房休養(Stall rest)と圧迫バンテージ装着による整復保護と治癒促進を行います。関節鏡手術や腱鞘鏡検査(Arthroscopic/Tenoscopic examination)が併用された場合には、腱鞘や関節包の内側面にスリット状の裂け目が観察される事が多く、また、滑膜過剰増生(Excessive synovial proliferation)が認められた症例では、滑膜切除術(Synovial membrane resection)とヒアルロン酸およびコルチコステロイドの注入が実施される場合もあります。
滑膜ガングリオンの予後は一般的に良好ですが、腱鞘炎および関節炎などの一次性疾患による間欠性慢性跛行(Intermittent mild lameness)を呈する症例もあります。滑膜ガングリオンと腱鞘・関節包との連絡孔が一方通行弁(One-way valve)の働きをしている症例も多いため、嚢胞貯留液を吸引(Aspiration of synovial effusion)したあとに圧迫肢巻を施す保存性療法(Conservative therapy)では、嚢胞再発の危険が高いことが示唆されています。
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