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馬の軟骨下骨損傷のバイオマーカー

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近年、血液検査によって馬の関節疾患を診断しようとする試みが続けられてきましたが、この際には、関節軟骨のバイオマーカーに主眼が置かれてきました。

ここでは、軟骨下骨のバイオマーカーによって、関節炎の病態タイプを把握するという知見を紹介します。この研究では、10頭の競走馬の調教期間を通したサンプル、69頭の関節炎の罹患馬でのサンプル、および、9頭の小片骨折の発症馬のサンプルでの、BGN(Neo-epitope for native biglycan)の濃度測定が行なわれました。

参考文献:
Adepu S, Ekman S, Leth J, Johansson U, Lindahl A, Skioldebrand E. Biglycan neo-epitope (BGN262), a novel biomarker for screening early changes in equine osteoarthritic subchondral bone. Osteoarthritis Cartilage. 2022 Oct;30(10):1328-1336.

結果としては、関節液中のBGN濃度は、健常な関節と比較して、軟骨下骨が損傷している関節では有意に上昇していることが分かりました(軟骨下骨の損傷スコアが2~3の場合)。また、関節軟骨の損傷を呈した関節では、BGN濃度は無変化であることから、関節液中のBGN濃度は、馬の関節における軟骨下骨の損傷を早期診断するバイオマーカーになると考えられました。

通常、馬の関節では、軟骨下骨の微細損傷が蓄積したり、その治癒過程で硬化症が生じて、周囲骨との硬さにギャップが生まれ、そのギャップが割れることで亀裂骨折を発症することが知られています。このため、軟骨下骨のバイオマーカーであるBGNの濃度を監視して、軟骨下骨の損傷を早期診断することで、競走馬の致死的骨折、および、管骨外顆や基節骨矢状溝の縦軸骨折、第三手根骨の盤状骨折などを予防できると考察されています。

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また、この研究では、調教期間の競走馬における関節液中のBGN濃度を見ると、始めの12ヶ月にわたって有意に増加した後、24ヶ月目まで高値が続いていました。このような、BGN濃度の上昇および高止まりは、強運動による骨組織の微細損傷、および、その後の順応性の骨再構築を反映していると推測され、関節液中のBGN濃度によって、骨損傷の蓄積度合いを経時的にモニタリングできるという可能性が示唆されました。

そして、馬の関節液中のBGN濃度は、健常な関節と比べて、小片骨折を発症した関節では有意に上昇しており、BGN濃度による小片骨折の鑑別診断では、ROC曲線下面積は0.957(=非常に良好な鑑別能)に達していました。このため、関節液中のBGN濃度上昇は、関節内の骨損傷を顕著に反映しており、関節骨折の診断指標として有用であると考えられました。

一般的に、BGNは、小型ロイシンリッチ・プロテオグリカン(SLRP)の一つで、軟骨と骨の両方に存在しており、骨組織の恒常性維持に寄与していることが知られています。そして、BGNが骨芽細胞を制御する役目を担っており、骨新生において活性増加することが示されており[1]、その反面、軟骨損傷を起こしている関節の滑液では、有意には増加していないことが報告されています[2]。このため、BGNは軟骨下骨のバイオマーカーとして有用であり、他の軟骨バイオマーカー(COMP等)と併せて、その濃度変化を経時測定することで、関節軟骨とその深部の骨の両方をモニタリングできると考えられました。

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参考文献:
[1] Miguez PA, Terajima M, Nagaoka H, Ferreira JA, Braswell K, Ko CC, Yamauchi M. Recombinant biglycan promotes bone morphogenetic protein-induced osteogenesis. J Dent Res. 2014 Apr;93(4):406-11.
[2] Skioldebrand E, Heinegard D, Olofsson B, Rucklidge G, Roneus N, Ekman S. Altered homeostasis of extracellular matrix proteins in joints of standardbred trotters during a long-term training programme. J Vet Med A Physiol Pathol Clin Med. 2006 Nov;53(9):445-9.

関連記事:
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このエントリーのタグ: 検査 骨折 関節炎

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