馬の文献:運動誘発性肺出血(Takahashi et al. 2001)
文献 - 2022年12月02日 (金)
「運動誘発性肺出血に起因する鼻出血の発症頻度および危険因子:1992~1997年の251609出走」
Takahashi T, Hiraga A, Ohmura H, Kai M, Jones JH. Frequency of and risk factors for epistaxis associated with exercise-induced pulmonary hemorrhage in horses: 251,609 race starts (1992-1997). J Am Vet Med Assoc. 2001; 218(9): 1462-1464.
この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary haemorrhage)の病因論(Etiology)および危険因子(Risk factors)を解明するため、1992~1997年における251609回のレース出走での鼻出血(Epistaxis)を呈した馬における、内視鏡検査(Endoscopy)と各馬や競走環境のデータとの比較が行われました。
この研究では、1600m以下、1600~2000m、2000m以上という、三段階のレースにおける運動誘発性肺出血の発症率は、それぞれ、0.13%、0.09%、0.35%となっており、1600~2000mに比べた場合、1600m以下のレースでは、運動誘発性肺出血を発症する確率が、六割近くも増加(調整オッズ比:1.59)することが示唆されました。しかし、2000m以上のレースにおける高い発症率(0.35%)は、年齢の高さが交絡因子(Confounding factor)となっていたため、距離そのものは有意な危険因子とは見なされませんでした(調整オッズ比:1.08)。このため、競走馬の運動誘発性肺出血の発症には、1600m以下の競走における“より高い最大パワー”(Higher peak power)が関与している可能性がある、という考察がなされています。
この研究では、障害飛越競走(Steepchase race)における運動誘発性肺出血の発症率は0.76%で、平地競走(Flat race)における発症率(0.11%)よりも顕著に高い傾向にあり、障害飛越レースのほうが平地レースに比べて、運動誘発性肺出血を発症する確率が五倍以上も増加(調整オッズ比:5.58)することが示唆されました。この理由としては、障害飛越における急激な減速(Abrupt decelerations during jumping)によって肺組織の損傷を起こし易かったことや、肺内の血液が鼻孔から排出され易かったこと(結果的に見た目の発症率が高くなった)、等が関与している可能性が示唆されています。
この研究では、二歳馬、三歳馬、四歳馬、五歳以上の馬における運動誘発性肺出血の発症率は、それぞれ、0.04%、0.08%、0.20%、0.27%となっており、二歳馬に比べた場合、三歳馬では二倍以上(調整オッズ比:2.21)、四歳馬では五倍近く(調整オッズ比:4.90)、五歳以上の馬では六倍以上(調整オッズ比:6.43)も、運動誘発性肺出血を発症しやすい事が示唆されました。この理由について、この論文の考察内では明瞭には結論付けられていませんが、高齢馬ほど肺組織への微細損傷の蓄積(Accumulation of micro-damage of lung tissue)を生じ易かったり、肺損傷の治癒が不完全であった場合が多かったこと、等が関与しているのかもしれません。
この研究では、牝馬における運動誘発性肺出血の発症率は0.14%で、種牡馬(0.12%)や去勢馬(0.13%)よりもやや高い傾向にあり、牝馬のほうが種牡馬に比べて、運動誘発性肺出血を発症する確率が四割以上も増加(調整オッズ比:1.42)することが示唆されました。一方、馬の品種の違い(サラブレッド v.s. アラビアン)による、運動誘発性肺出血の発症率の差異は認められませんでした。過去の文献では、牝馬のほうが運動誘発性肺出血を起こし易いという知見もありますが(Hillidge et al. Res Vet Sci. 1986;40:406)、そのような性別による発症素因(Predisposing factor)は認められなかった、というデータも示されています(Pascoe et al. AJVR. 1981;42:703, Raphel. AJVR. 1982;43:1123)。
この研究では、251609回のレース出走のうち、運動誘発性肺出血に起因する鼻出血が認められたのは369回で、発症率は0.15%であった事が示されました。この発症率は、他の文献のデータよりも顕著に低い傾向にあり、この理由としては、今回の研究では鼻出血が見られた馬のみに対して内視鏡検査が行われたこと、獣医師による視診がレースの30分後という短時間で実施されたこと、日本における運動誘発性肺出血の発症率は他の国よりも元々低い傾向にあること、等が挙げられています。
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この研究では、牝馬における運動誘発性肺出血の発症率は0.14%で、種牡馬(0.12%)や去勢馬(0.13%)よりもやや高い傾向にあり、牝馬のほうが種牡馬に比べて、運動誘発性肺出血を発症する確率が四割以上も増加(調整オッズ比:1.42)することが示唆されました。一方、馬の品種の違い(サラブレッド v.s. アラビアン)による、運動誘発性肺出血の発症率の差異は認められませんでした。過去の文献では、牝馬のほうが運動誘発性肺出血を起こし易いという知見もありますが(Hillidge et al. Res Vet Sci. 1986;40:406)、そのような性別による発症素因(Predisposing factor)は認められなかった、というデータも示されています(Pascoe et al. AJVR. 1981;42:703, Raphel. AJVR. 1982;43:1123)。
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