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馬の蹄関節の側副靭帯炎

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馬における蹄関節の側副靭帯炎(Collateral desmitis of the distal interphalangeal joint)は、稀に見られる跛行の原因疾患です。ここでは、英国の馬研究センターにおいて、2001~2003年にかけて、蹄関節の側副靭帯炎を呈した18頭の馬に関する症例集積研究を紹介します。

参考文献:
Dyson SJ, Murray R, Schramme M, Branch M. Collateral desmitis of the distal interphalangeal joint in 18 horses (2001-2002). Equine Vet J. 2004 Mar;36(2):160-6.

馬の蹄関節の側副靭帯炎は、中節骨の内外側の陥凹部に起始して、末節骨の背内側および背外側の陥凹部に付着しており、蹄軟骨(末節骨の側副軟骨)よりは背側に位置しています。この靭帯の機能は、蹄関節の安定性を担うことにあり、蹄が斜めに接地した際には、末節骨が回転しながら低い側へと僅かに滑落するため、蹄関節の側副靭帯に強い緊張が加わります。上図内の記号は下記です。1:中節骨、2:末節骨、3:舟状骨、4:蹄関節の側副靭帯、5:蹄軟骨、6:Chondrocoronal ligament(蹄軟骨蹄冠靭帯)。

蹄関節の側副靭帯炎でのプロフィールは、前肢が94%を占めており、外側よりも内側の側副靭帯に好発しており(72%)、平均発症年齢は9歳でした。また、症状としては、グレード3~4の跛行を呈した症例が89%にのぼり、回転運動(罹患肢を内側)では跛行悪化を示した症例が殆どで(硬地と砂地での跛行は同程度)、罹患部の腫脹が触知された症例は17%に過ぎませんでした。

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診断としては、掌側指神経麻酔で跛行改善したのは87%でしたが、跛行が消失したのは38%留まり、遠軸神経麻酔では100%が跛行消失しました。蹄関節麻酔で跛行改善したのは40%で、舟嚢麻酔で跛行改善したのは50%でした。ただ、他の文献では、蹄関節麻酔で80%が跛行改善した、という報告もあります[1]。

また、X線検査に陰性を示したのは89%にのぼり、他の症例では、蹄関節の変性関節疾患や亜脱臼の徴候が見られました。しかし、他の文献では、X線で異常所見を認めた症例が60%に上ったとの報告もあります。エコー検査では、50%の症例で、靭帯の肥厚とエコー輝度不整が認められ(上写真)、蹄関節膨満による靭帯変位を示した症例もありました。なお、MRI検査では、海綿骨石灰化、液体貯留、骨浮腫、小柱損傷などが確認されています。

治療としては、休養や水冷療法、抗炎症剤の全身投与、抗炎症剤の蹄関節注射などが挙げられ、半肢キャストによる蹄関節の不動化や[3]、内外側に傾けて接地させ対側靭帯をストレッチするリハビリ療法も試みられています。しかし、最適な治療法については、まだエビデンスが不十分であり、今後の検討を要すると言われています。

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なお、蹄関節周囲の組織をエコー検査するときには、蹄冠部にプローブを当てて、見下ろしながら描出するため、微妙なプローブ角度の違いで評価できる構造物が変わってくることに注意するようにします。上図では、1は中節骨、2は末節骨、3は蹄関節の側副靭帯、4は蹄軟骨、5はChondrocoronal ligament(蹄軟骨蹄冠靭帯)、6は蹄冠静脈叢を示しています。そして、プローブ角度B~Dにおいて、側副靭帯の大きさ、形状、内部性状の評価が可能となります[4]。

Photo courtesy of Equine Vet Edu. 2011, 574-580; Equine Vet J. 2004, 36(2), 160-166.

参考文献:
[1] Turner, T. and Sage, A. (2002) Desmitis of the distal interphalangeal collateral ligaments: 22 cases. Proc AAEP. 48, 343-346.
[2] Denoix, J.-M. (2000) Ligament injuries of the distal interphalangeal joint in horses. In: Proc AAEP, Paris, France. pp 41-43.
[3] Trope GD, Whitton RC. Medial collateral ligament desmitis of the distal interphalangeal joint in the hindlimb of a horse: treatment with cast immobilization. Aust Vet J. 2009 Dec;87(12):499-502.
[4] Denoix JM, Bertoni L, Heitzmann AG, Werpy N, Audigie F. Ultrasonographic examination of the collateral ligaments of the distal interphalangeal joint in horses: Part A: Technique and normal images. Equine Vet Edu. 2011, 574-580.

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このエントリーのタグ: 治療 検査 関節炎 蹄病

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