馬の“横風”跛行での鑑別診断
話題 - 2022年12月03日 (土)

馬の“横風”跛行(Sidewinder gait)とは、常歩において前肢と後肢の動きが連携せず、片方の後肢を外方に投げ出しながら、その反対側に後躯を大きく傾けながら歩く歩様を指しています。ここでは、横風跛行の診療が行なわれた24頭の馬における、鑑別診断、治療、予後について調査した知見を紹介します。
参考文献:
Aleman M, Berryhill E, Woolard K, Easton-Jones CA, Kozikowski-Nicholas T, Dyson S, Kilcoyne I. Sidewinder gait in horses. J Vet Intern Med. 2020 Sep;34(5):2122-2131.
“横風”跛行の症例馬のプロフィールは、クォーターホースが54%と最も多く、次いでサラブレッド(17%)となっており、騙馬が63%を占めていました(残りは牝馬)。症状発現から初診までの期間は、中央値で14日となっていました。症状としては、姿勢と歩様の異常のほかに、後肢挙上の難渋または不能が見られ、触診による疼痛反応が、胸腰部(29%)、骨盤(17%)、股関節(13%)に認められました。また、寝起き困難であったのは58%で、摂食困難であったのは29%に上っていました。
症例馬24頭のうち、神経器疾患と診断されたのが16頭で、運動器疾患が8頭となっていました。神経器疾患の内訳は、胸腰椎の動的圧迫症(5頭)、馬原虫性脳脊髄炎(4頭)、特発性の胸椎脊髄症(4頭)、神経膠症(2頭)、血栓性の胸椎脊髄圧迫(1頭)となっていました。一方、運動器疾患の内訳は、股関節炎(4頭)、骨盤粉砕骨折(2頭)、両側性の大腿骨頭靭帯断裂(1頭)、後肢の壊死性筋炎(1頭)となっていました。

症例馬の平均年齢は、神経器疾患では19.8歳で、運動器疾患では17.1歳でした。また、神経器疾患の症状発現は、急性が44%と最も多く、次いで、亜急性が38%、漸増性が18%となっていました。一方で、運動器疾患の症状発現は、急性が37%で、漸増性が63%となっていました。そして、臀部の筋委縮は、神経器疾患では63%が両側性であったのに対して(上写真の左)、運動器疾患では75%が片側性に見られました(上写真の右)。
脳脊髄検査が実施されたのは、半数以下の症例(11/24頭)でしたが、異常所見としては、有核細胞数増加(55%)、好中球分画増加(73%)、蛋白濃度上昇(27%)などが含まれました。また、筋電図検査が行なわれた9頭では、全頭で異常所見が見られ、これには、刺入電位遅延、線維自発電位(下図の左)、陽性鋭波(下図の右)などが含まれ、これらの所見により、神経系機能不全による姿勢/歩様異常であるという推定診断が下されました。そして、筋生検が行なわれた9頭では、全頭で異常所見が見られ、神経原性筋委縮や不使用性筋委縮が見られました。なお、免疫蛍光抗体アッセイでは、肉胞子虫の抗体陽性馬は50%でした。
X線検査およびエコー検査では、重度の股関節炎(4頭)、胸椎間/腰椎間関節の重度変性関節疾患(3頭)、腰仙部椎間板疾患(2頭)、骨盤粉砕骨折(2頭)などが確認されました。一方、股関節の診断麻酔が行なわれた4頭では、いずれも歩様変化は見られませんでした。

治療としては、非ステロイド系抗炎症剤(11頭)、ビタミン剤(7頭)、抗原虫薬(3頭)などの投与と、補液療法(6頭)が実施され、股関節注射療法(2頭)も試みられました。そのうち、明瞭な治療効果を示したのは1頭のみで、原虫性脳脊髄炎に対する抗原虫薬の投与により、姿勢異常と筋委縮は改善したものの、歩様異常は残ったままでした。
症例馬24頭のうち、診断後に安楽殺されたのは18頭で、退院後に1頭が安楽殺となったため、最終的に、“横風”跛行の馬での生存率は21%(5/24頭)に留まりました。その後、三年間の経過追跡ができた2頭では、いずれも放牧飼養のみで、騎乗使役には復帰できておらず、姿勢や歩様の異常は持続しているとの稟告でした。
以上の治療成績から、馬における“横風”跛行は、神経器または運動器の疾患によって発現して、特に、筋電図検査を介した神経伝達能の評価が、鑑別診断に有用であることが示唆されました。しかし、治療には不応性を示すことが殆どで、長期的生存や機能回復の意味での予後は不良であることが示唆されました。
Photo courtesy of J Vet Intern Med. 2020 Sep;34(5):2122-2131.