馬の文献:運動誘発性肺出血(Geor et al. 2001)
文献 - 2022年12月05日 (月)

「サラブレッドの強運動後の運動誘発性肺出血に対する外部ネーザル・ストリップおよびフロセマイドの効果」
Geor RJ, Ommundson L, Fenton G, Pagan JD. Effects of an external nasal strip and frusemide on pulmonary haemorrhage in Thoroughbreds following high-intensity exercise. Equine Vet J. 2001; 33(6): 577-584.
この研究では、馬の運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary haemorrhage)に対する有用な予防法を検討するため、八頭の健常なサラブレッドを用いた、鼻孔拡張バンド(所謂、外部ネーザル・ストリップ:External nasal strip)の装着時、フロセマイドの投与時、その併用時、および、無治療時において、トレッドミル上での強運動(High-intensity exercise)を行い、その際の肺機能検査(Lung function test)および肺胞気管支洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid)の評価が実施されました。
結果としては、肺機能検査では、鼻孔拡張バンドの装着だけの時、および、鼻孔拡張バンドとフロセマイド投与の併用時のほうが、無治療時およびフロセマイドの投与だけの時に比べて、運動時の酸素消費量(Oxygen consumption)および二酸化炭素生成量(Carbon dioxide production)が有意に低かった事が示されました。しかし、血漿中の乳酸濃度(Plasma lactate concentration)には、いずれの治療郡においても、有意な変化は認められませんでした。また、肺胞気管支洗浄液の検査では、鼻孔拡張バンドの装着だけの時、および、フロセマイドの投与だけの時のほうが、無治療時に比べて、赤血球数が有意に低く、その上、鼻孔拡張バンドとフロセマイド投与の併用時には、鼻孔拡張バンドの装着だけの時よりも、赤血球数が更に少なかった事が報告されています。
このため、競走馬の運動誘発性肺出血に対しては、鼻孔拡張バンドの装着によって吸気抵抗(Inspiratory resistance)や肺内陰圧&肺胞内陰圧(Negative intra-pulmonary/ alveolar pressures)を減少させることで、酸素消費量と二酸化炭素生成量を抑制するだけでなく、運動誘発性肺出血の発症予防や重篤度減退(Reduction of severity)などの効能が期待できることが示唆されました。一般的に、馬の運動誘発性肺出血の発症に際しては、肺脈管高血圧(Pulmonary vascular hypertension)による毛細血管のストレス性損失(Stress failure of capillaries)の他にも(West and Mathieu-Costello. EVJ. 1994;26:441)、吸気時の肺内陰圧による毛細血管の経壁圧(Capillary transmural pressure)の上昇も関与している、という病因論(Pathoetiology)が提唱されています(Poole et al. J Eq Vet Sci. 2000;20:579)。
一般的に、馬の運動誘発性肺出血では、肺の背尾側葉(Dorsocaudal lung lobes)が出血の原発部位であることが知られており(O’Callaghan et al. EVJ. 1987;19:428)、この箇所に生じた血液を充分に洗い出すことの出来る肺胞気管支洗浄液検査では、検体に含まれる赤血球数が、運動誘発性肺出血の発症の有無の確認だけでなく、高感度かつ定量的な出血重篤度の指標(Sensitive and quantitative parameter of hemorrhage severity)になると考えられています(McKane and Rose. EVE. 1993;5:329)。一方、肺胞気管支洗浄液を複数回にわたって採取する場合には、その過程そのものが肺組織の炎症性反応(Inflammatory response)を引き起こす可能性があると提唱されていますが(Tyler et al. Proc Int Conf EIPH. 1993:16)、少なくともこの論文の研究デザインでは、実験結果の解釈(Interpretation)に影響するほど大きな作用は無かった、という考察がなされています。
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